第33話:公子の愚痴
翌日の夕方。
昨日に引き続き、歩道橋の上で無反応のミテルに公子は修行の愚痴を聞いてもらっていた。
「リモートで修行って、あり得なくない?」
公子の修行の師範役となった公彦は、初日の修行で一通り公子の状況を把握したらしく、翌日、公子が勢いよく乗り込んだ道場には、複数のカメラがセットされ、最新式の大きなタッチパネルのディスプレイがドカンと中央に腰を下ろして公子を待っていた。
以来、公彦はリモートで修行の指示を出し、公子は数台のカメラに囲まれた中で毎日座禅を組まされている。
「確かに、顔を見ながら会話はできるよ。うとうとしてたらバレて怒られるよ。でもさ、きっと公彦兄さん、ソファで紅茶とか飲みながら修行の片手間にデスクワークしてるよ、いや、デスクワークの片手間に修行してるよ、あれ、きっと。ね。そうだよね。酷くない?」
想像していた難易度が高く厳しい修行とは方向性の異なる、毎日座禅ばかりの体力的に厳しい修行。
座禅1時間を3回。その間に、筋トレが1時間と、座学が1時間。
座学と言っても、白黎社の新入社員向けに用意された45分程度の動画の教材を見て、15分くらい質疑応答するだけだった。
「確かに、白黎社の教材は良くできてる。ドラマ仕立てで面白い。この私が、眠くなることもなく毎回最後までちゃんと見れるからね。…だけどさ、だけどさ、師範役として、どうなの?それってちょっと、手抜きすぎじゃない??」
もっと霊のことを知りたい、自分の力のことを知りたい、登和家のことを知りたい、時任のいる白黎社のことを知りたい、と意気込んでいた公子の修行への期待からは、今のところ大きく外れている。
学校に行けば、友人たちとおしゃべりをするお昼休みもないため、修行中はほとんど口を開くことなく、地味に一日を終える。そんな毎日が、この先もしばらく続くのかと考えると、公子は不満と焦りでおかしくなりそうだった。
「でもさ、今日ね、私の
***
「…つまり、こういうことかい?」
公彦がモニターの中から憮然とした顔で聞き返した。
オンライン通話の背景は、道場の画像に設定されている。
「きみちゃんは幼い頃から無縁体の声が聞こえる。先日、姫ちゃんが暴走させてしまった無縁体に対して、”
「そうそう、そうそう。」
食い入るようにモニターに向かって頷く公子。
しばらくの沈黙の後の公彦の答えは、意外にも肯定的な反応だった。
「全くありえない話…ではない、かもな。」
「やっぱり、私、霊と会話できるの?」
「”言の葉”を介せば、術者は誰でも、通常の無縁体が相手ならば基本的な意思疎通はできる。」
「そっか。」
「ただ、きみちゃんの場合は、無縁体の声が聞こえて、”言の葉”なしで会話が成立させられる、ってところがポイントなんだ。」
「…と、いいますと?」
「一般的に、無縁体の存在する世界と僕たち人間の生きる世界は、質が異なっていて互いに干渉しない全く別の世界のはずなんだ。同じ空間に存在する”異次元の存在”、って言った方が分かりやすいかな。普通の人にはあれらは視えもしないし、身体がぶつかっても何も気づかないだろう?」
「異次元…なんだ。ますますよく分からないけど。」
「異次元は、まぁちょっと言い過ぎかもだけど、要するに、霊体の世界に触れたスピリチュアルな霊、つまり特殊な魂を持った者だけにたまたま視える世界なんだ。だから、向こうの世界の音も聞こえるはずは無いし、同様にこちらの世界の音も聞こえることはないんだ。だから、自然物である植物の葉を”言の葉”として利用し、言葉とは別の生命エネルギーのようなものに変換した意思を無縁体に伝えたり、無縁体の意思のようなものを感じとったりするのが、登和家の術式の基本的な構造なんだよ。」
そう、それが基本的な、構造。
通常であれば、声が聞こえるなどという話は聞くに堪えない与太話として、誰も相手にはしないだろう。
しかし、公彦は、以前にも『霊の声』の話をした人物を知っている。
それは、自分を公子の師範役に任命した、祖父・
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