第30話:三人目の被害者

無縁体328号は、浮遊性の無縁体である。


”浮遊性”といっても、空を飛ぶというよりは歩かずに移動する、という表現が近い。

基本的には一丁目公園付近に出没して数メートルほど移動するのを時任も見かけていたが、この日はまるで人間が歩いて移動するように、随分と長く移動していることに時任は奇妙な違和感を感じていた。


奇妙な違和感はやがて、嫌な予感に変わり、一丁目公園近くの高架脇の歩道に差し掛かった時、その嫌な予感は面倒な事実を確定させた。


普段は人通りのほどんどない場所に数名の人だかりがあり、それをかき分けながら慌ただしく”POLICE”のマークを付けた警察関係者たちが行き来していた。その先の少し奥まったコンクリートの壁の横に、何かが覆われたブルーシートが見える。おそらく3件目の被害者の遺体だろう。


「俺たちより先に現場にいるなんて、やっぱりそちらさんの件となんか関係があるのかな?」


白い手袋をはめながら、後ろから来た町田が時任を追い越しながら声をかけた。


時任は渋い顔で胸のポケットから白黎社の手帳を取り出し、示しながら町田の後について現場に立ち入った。町田が手慣れた様子で現場確認していくのを黙って見守り、最初に駆け付けた警官からの状況報告を町田と共に聞いた。


報告によると、犬の散歩をさせていた男性から110番に第一報が入ったのは30分ほど前で、遺体の状況から死後1~2日程度と推定されているということだった。昼間でも薄暗く、普段人通りの少ない道であり、遺体が草むらの中にあったことから発見が遅れたのではないかと。また、殺害方法が刺殺であることと、片方の靴が持ち去られているという犯行の手口の一致から、先の2件の連続通り魔事件との関連性が疑われる、という内容の報告だった。


「で?こっち(警察)の情報は以上だが、そちらさんの情報は何か進展あった感じ?」


草むらをかき分けて現場付近の遺留品を探す鑑識の職員たちに労いの言葉をかけながら、町田が時任に詰め寄ってきた。


「進展、というほどのことは…。」


そう言って時任は、現場を遠巻きに見る人だかりから少し離れた場所に見える無縁体328号の方へ目をやった。


無縁体328号の後を追って来たら、この現場に辿り着いたことから、無縁体328号がこの事件に関係している確率は非常に高くなったと認めざるを得ない。しかし、無縁体がこういった事件を引き起こせるはずはないので、現段階では無縁体とこの事件がどう関係しているのか、は全く見当もつかなかった。


全く厄介な現場に来てしまったものだ、と深くため息をついた時任は、ふと、無縁体328号の後ろから、自分に向かって小さく手招きをしている登和家の次女の姿に気付いた。


「ん?」


こそこそとした小さなジェスチャーで、時任に何かを伝えようとしているようだった。

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