第16話:宮下町三丁目歩道橋下の無縁体

そして今朝もまた、ミテルくんは歩道橋の下。


「宮下町三丁目歩道橋下の無縁体…」


父がそう呼んでいたのを思い出して公子は声に出してみた。

少し寂しい気がした。

白黎社の仕事の中では、個々の無縁体にそうした呼び名があるのだろうか。


父からの話が終わった後、母が待っていて黙って二人にお茶を淹れてくれた。

香りから特別な茶葉を使ってくれたのが分かった。


二人が少し落ち着いた表情になったのを見て微笑むと、綯交ぜ術ないまぜじゅつを使うなんてどうかしてる、としきりに繰り返しながら昨日の白黎社からの報告内容を教えてくれた。


どうやらミテルくんは特殊な霊だったようで、綯交ぜ術ないまぜじゅつにより暴走した詳細な理由は分からなかったと言う。

単に術によって深層に触れられたことに対して拒絶的な反応があり、術師の指示が上手く伝達できず混乱に陥っただけ、という見解で結論付けられたようだった。

物理的な被害は出たものの、白黎社の迅速な処置により大きな問題にはならなかったため、白黎社による正式な滅霊の対象にもされることはなかったらしい。


昨日の除霊士団のことも少し聞けた。

第何師団まであるのかは知らないが、昨日出動したのは第三師団だったらしい。

思った通り、公子たちに時任と名乗ったイケメンが団長だったが、意外だったのは母が彼を『時任くん』と呼んでいたことだった。そういえば、公子は白黎社の規模を知らない。滅霊師以外にという役職があることも昨日まで知らなかったくらいだ。ましてや、父や母が白黎社の中で、どのような役割でどのような仕事をしているのかなど、家でも聞いたことがなかった。


掌の中のティーカップの紅茶が完全に冷めた頃、姉は部屋に戻っていった。

ミテルくんは元の位置に戻ったから、もう関わらないように、と強く念押しされながら、公子は家を出た。

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