第14話:白黎社の人
「君たちは大丈夫?」
まだ呆然としている二人を見て男はにっこりと笑った。
「清和高校の制服だね、君たちは…姉妹かな?」
初対面の男性が、全く似ていない姫子と公子を見て『姉妹』かと聞いてきたことにも驚いたが、なによりも公子を驚かせたのは、その男性の整った容姿だった。
男が話しながら、少し汗ばんだ帽子を被りなおす時に、くしゃくしゃと髪を掻き上げるしぐさに公子は目が奪われた。
(こんなイケメン、リアルにいるんだ…)
品があって優しそうな眼差しに見つめられて、公子の心は今までにないほどに高揚していた。
いつもなら姫子の後ろに隠れる公子だったが、この時は肝心の姫子が放心状態なこともあり、珍しくも公子の方が返事をした。
「はい、清和高校の、登和公子と、姉の姫子です。」
(別に名前を聞かれたわけでもないのに、なんで名乗ってんの私!!)
公子は自分の行動にダメ出しをしながらも、男から目が離せなくなっていた。
「あぁ、登和家のお嬢さん方でしたか。」
と言うと男は姿勢を正し、自分は白黎社の除霊師で
「除霊師…?あの、滅霊師ではなくて?」
「いや、困ったなぁ、滅霊術は登和家の血を引く人間しか使えない、って聞いたことないかなぁ」
はははと頭をかきながら時任は笑って流してくれたが、とっさに浮かんだ疑問を口にしたことで、自分がとても失礼なことを言ったような気がして公子は再び自分にダメ出しをした。
「ところで、今回の無縁体の暴走に関して、何か気付いたことや知ってることがあったりしないかな?」
その言葉で、公子も姫子も自分たちのしたことを思い出した。
むしろ、白黎社に気を取られて、大変なことをすっかり忘れてしまっていたことに驚いた。
顔を見合わせた限り、どうやら相手も同じように忘れていたようだった。
気を持ち直した姫子は、登和家の長女らしく、堂々とした態度で自分たちのしたことを正直にすべて時任に報告した。
メモを取りながら黙って聞いていた時任が感心したように姫子に言った。
「さすが”登和家のお姫様”と言われるだけある、とっても簡潔で分かりやすい説明をありがとう。」
公子の胸がチクンとなった。
周囲の人が姫子を褒めるのはいつものことで慣れていたはずだった。
でも、今回の原因は自分にあるという負い目も加わって、その場に居たたまれない気持ちになった。
しかし、当事者がこの現場から逃げ出すわけにはいかない。
時任が本部に連絡をして指示を仰いでいる間、何事もなかったかのような日常を取り戻した商店街を眺めていた公子は時任に言った。
「みんなもっと怖がるかと思ってました。視えない者の力で動いたり壊れたりすると。」
本部とのやり取りに使っているスマホから顔を上げて時任が答えた。
「あぁ、記憶消してるからね、その辺は大丈夫なの。」
さらりと凄いことを言われ、公子は耳を疑った。
救いを求めて姫子の顔を見ると、黙ってなさい、というような目の合図が返ってきた。
(記憶とかも、消せちゃうんだ…)
それは自分の記憶も消されてしまうのではという不安と同時に、やがて自分が白黎社に入るころには身に着けているであろう術であることを考えると、頼もしいような怖いような複雑な心境になる話だった。
やがて本部から連絡が来て、姫子と公子については別途注意があるということで、この日はいったん帰ってよいことになった。
いつの間にか止んだ雨雲の隙間から、強い夕日が刺しこんで、東の空に大きな虹をかけていた。
公子は、初めて感じた無縁体への恐怖心と、初めて知った白黎社の活躍と、除霊士団の時任と交わした数少ない言葉を思い返しながら、家に帰った。
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