第13話:商店街の怪

追いかけてきた姉の声も聞こえないほど、商店街は混乱していた。


無縁体は霊であり、地面と認識した場所以外のモノには触れられない。それが、通常だ。だから、そんなミテルくんが右に左に暴れて走り回るだけでは、通常なら何の害も出ないだった。


しかし、目の前のミテルくんは、なぜか、ガラスを割ったり、自転車を倒したり、並べられた商品を道にぶちまけたりしている。さらには、霊体としてぶつかった”視えない”人たちにも影響を与えているようで、多くの人が痛みや眩暈を起こすなどしてうずくまって苦しんでいるようだった。


「え…ちょっと、なにこれ。」


後から来た姫子は目の前で繰り広げられる惨事を見ながら、言葉を失った。

そして、その光景にいつか座学で言っていた『無縁体の暴走』というくだりを思い出していた。


無縁体に対して不適切な滅霊術をかけてしまった場合、悪霊化して人を襲うこともあると。

悪霊化の中でも凶悪なケースでは、物質的に干渉する力を持って人を物理的に傷つけることもできるようになるとかならないとか。

実技が特別に優れていることに慢心し、座学をないがしろにしてきたことが、ここにきて響いてきたことに気付いたが、もうそんなことを後悔していられる状況ではなくなっていた。


「やばい…」


姫子がそう言ったのとほぼ同時に、サイレンの音が聞こえてきて、商店街に何台かの覆面パトカーが止まった。中から見覚えのある軍服のような揃いの真っ白い制服を着た数名の男たちが走り出てきた。男たちは素早くミテルくんの行く手を阻むと、流れるように訓練された術所作を始めた。


登和家の家業である『白黎社』の者たちだった。


暴走するミテルくんを取り囲み術で足止めする数名。

倒れた人たちに回復術を掛けるもの数名。

また、壊れたモノや倒れたモノなどを片付ける数名。

合わせて15人程度の男女が走り回り、事態の収束を図っていた。


公子は、白黎社の仕事ぶり見るのは初めてだった。


家業と言いながらも秘め事が多く、一人前と認められるまでは話をするのもタブーだった。社会的にも目立ってはいけない仕事ゆえに、普通の生活をしている中で彼らの仕事を見る機会はそうそうない。


目の前の惨劇に驚愕していた公子だったが、その惨劇が白黎社の者たちにより手際よく収拾されていく様子を目の当たりにし、思わず自分たちが元凶だということを忘れて興奮を感じた。

それほど、その統制のとれた素早い動きと、手際の良さは誰もが見とれて関心してしまうほどのものだった。

隣に立ち尽くす姫子も同じように、放心したように彼らの動きを見守っていた。


***


白黎社の到着から数分後、商店街の怪は終息した。


倒れた人たちも、白黎社の人に礼を言うと、何事もなかったかのように買い物を続けていた。

割れてしまったガラスにも”キケン”などと手書きで書かれた、この商店街でも違和感のないの貼り紙が添えられていたし、散らかった商品も元のディスプレイに戻されるか、白黎社によって買い上げられており、”売り切れ”の表示を嬉しそうに立掛ける店主の姿が見えた。


(これが、白黎社…。)


目の前で起こったことが理解できないでいる公子と姫子のところへ、白黎社のリーダー格のような人物が近づいてきた。

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