第8話:商店街
公子の住む町には、駅前の大きな商店街に加えて、生活に寄り添った小さな商店街がいくつか点在している。
例の歩道橋の先の交差点を曲がったところからも、150メートルほど小さな商店街が続いていた。
夜8時を過ぎたころ合いで、半分くらいの店はすでにシャッターが閉まっている。
残りの店も、店じまいの準備に追われる明かりがついている。
数台の自転車がスピードを出して行き交い、まばらな歩行者も足早にそれぞれの家に向かっている。
そんな中、しばらく進んだところで、姫子は足を止めた。
視線の先を見ると、通りの真ん中にミテルくんが立っていた。
通行人の邪魔にならないように注意しながら、二人はしばらく様子を伺った。
相変わらず無表情なままのミテルくんは動く気配もなく、その場にとどまっているようだった。
「あそこで何やってるんだろう」
先に口を開いたのは公子だった。
姫子はミテルくんを見つめた視線を動かさずに答えた。
「新しい場所を決めたんだよ、あそこに。」
ビビッビーッ。
後ろから軽自動車がクラクションを鳴らして近づいてきた。
姫子と公子は道の端に避ける。
軽自動車は、二人の横を通り過ぎる。
そして、そのまま彼、ミテルくんの立っている場所を通り抜けて過ぎ去っていった。
あの場所だと、まぁ、そうなるよね、という感じで二人は顔を見合わせた。
「ちょっと道の端に移動させてあげられないかな?」
公子の提案に面倒臭そうな表情をしながらも、しぶしぶ姫子はミテルくんに近づくと、再び両手をかざして滅霊の言葉を呟き始めた。
「汝、我の願いを聞き給え」
そして、次の言葉を少し考えて、続けた。
「汝、もう少し道端に寄ったところでとどまり給え」
少し離れた場所から見守っていた公子は、その微妙な表現が聞こえてきて少し吹き出しそうになったが、姫子の真剣な表情を見て自省した。
その言葉の通り、ミテルくんが少し道端に移動して止まったのが、暗がりに見えた。
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