第5話:登和家(とわけ)

公子の生まれた登和家とわけの歴史は古い。


本当かどうか分からないが、古くは奈良や平安時代から”滅霊”の能力を駆使して都を守ってきたと言われている。


登和家では、16歳の誕生日に霊能力の継承儀式を行う。

そして、その後、数か月間の修行を終えた者だけが、公に霊能力を使うことを許される。

”滅霊”の作法や技術も、その修行の中で体得する。


公子の継承儀式と修行開始は、誕生月である来月の7月中旬に予定されていた。


まだ修行を終えてない公子は、”滅霊”ができないどころか、そもそも霊についてすら詳しくは知らされてない。


けれど公子にとって、無縁体の霊たちは、割と身近な存在だった。

生まれたころから身近に無縁体の霊たちはたくさんいて、そこに居て当たり前、そこに居ることを許されている霊なのだ、という認識を刷り込まれて育ってきていた。


彼らの中には、見るのも恐ろしい異形の者も存在するけれど、気付かずに生活している”視えない人”たちにほぼ無害であり、中には事故を防いだり、悪意を取り払ってくれたり、人々を守ってくれるような存在の無縁体もいると言う話も聞いたことがある。


もちろん、全ての無縁体がという訳ではない。


だからこそ、登和家の滅霊の力が必要とされてきた。

人に害をなす霊および無縁体が現れると、登和家を中心とする滅霊集団『白黎社(はくれいしゃ)』がネットワークを駆使して速やかに対応する。

”滅霊”によるか、”呪縛”によるを施すことで、世の中の秩序を保ってきたのだ。


公子の祖父がこの白黎社はくれいしゃの社長を務めており、両親や親族のほぼ全員がこの白黎社で働いている。


公子も姉の姫子も、将来は自分もこの白黎社で働くことになるのだろうとぼんやりと理解していた。

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