第3話:ミテルくん

『ミテルくん』は本当に、ただ歩道橋の階段を下から見上げているだけの存在だった。


雨の日も風の日も、大雪の日だって顔色一つ変えず、ただ同じ場所に立っている。

多くの”無縁体”がそうであるように、その歩道橋で頻繁に事故が起こるという事実もなく、完全に無害な霊。


無表情でただじっと、上り下りする人を下から見上げている。

もちろん、老若男女問わず、見上げている。

だから、あえてスカートをのぞき込んでいるという訳でもない。


だがしかし。

もし風が吹いたら確実に何人かは見えてしまっているに違いないポジションに立ち、絶妙な角度で見上げているのだ。

もしかしたら「その刹那」を楽しみながら過ごしている霊なのかも知れない…と思うと、公子は別の意味の寒気がした。それほど、じっと、じぃぃぃっと、上り下りする人の姿を見ているのだ。


このように、特に害のない『ミテルくん』については、これまで公子もあまり気にしてこなかったのが事実だ。


けれど、この春から女子高生になってミニスカートで歩道橋を上り下りするようになると、”彼”が視えている公子には、我慢ができなかった。


”彼”が視えてない友人は軽々とスカートをはためかせて上る階段も、公子は厳重にスカートのすそを抑えながら進まなければならない苦行の道だった。


毎日の通学路にある”自分だけの障害”に、花の乙女が我慢の限界を感じ始めたのは、ゴールデンウィークの明けた5月の中頃だった。


そして、6月に入った初日の今日、遂に限界に達したのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る