第2話:無縁体

私、登和とわ公子きみこは、代々霊能力を持つ家系である登和(とわ)家の当代当主の次女として生まれてきた。


引き継がれた霊能力を疑うこともなく健やかに育てられ、自分に見えている人の一部は、他の人には視えない”霊”という存在だと知ったのは、ずいぶん遅く小学校高学年になってからだった。


”霊”と言っても、人の性格や体質がそれぞれ違うように、その死者の残存形態も様々である。


一般的には、無念を晴らせば霊は消えると言われているように、確かに、未練があってこの世に残る者は、未練がなくなると”消える”ことが多い。


成仏する? 私たちは成仏とは言わない。

仏になるかどうかは分からないから。

彼らはただ、”永遠とわの世界”からいなくなるだけ。


そんな霊たちの中には、無念など無いにも関わらず、この世に残ってしまっている者たちもある。


そんな霊こそが、実は厄介だったりする。

なぜ残っているのか、どうして消えないのか、分からないから。


消えない霊については、害がある者は呪術などで縛り付けておくしかない。

大した害がない者については、見て見ぬフリをしておくことも少なくない。


そういう理由から、この世に放置されている人畜無害な霊が実は街にはたくさんいる。


彼らは総じて、”無縁体むえんたい”と呼ばれている。


学校の教室の隅、誰かの家の前、街をうろつく霊もいれば、大通りのど真ん中に仰向けに寝転んで、毎日ただ車にひかれ続けているだけの霊もいる。


彼らは本当に何がしたいのか分からないことが多い。

霊が視える私たちには、ぱっと見では生きている人間との区別がつきにくいが、その行動の特殊性で、ある程度判別ができるのが通常だった。


そして、そう。

毎日、あの歩道橋の下から階段を見上げている”彼”もまた、その一人なのである。


私が子供の頃からあの歩道橋の下に居て、ただだけだから、『ミテル君』と姉と陰で呼んできた。

むしろ親しみすら持っていた。


だって、これまでの私には、完全に無害な存在だったのだから。



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