滅霊師見習い 登和公子(とわきみこ)

風光

KIMIKO×MITERU

第1話:公子の憂鬱

永遠と書いて、"とわ"と読む。

永遠に終わらない死後の世界に通じる血筋の者たちの家名である。


*****


(見てる、見てる。見てる、見てる。見てる、見てる、見てる、絶対見てるぅ…泣)


新しい制服のスカートの裾を両手で必死に抑えながら、少女はぎこちなく歩道橋の階段を上っていた。


いつもの通学路、いつもの歩道橋。

そして、いつもの――、ねっとりとしたこの視線…。


毎日の登下校時で通る歩道橋。

階段の上り口あたりから少女に向けられている視線が、今朝はいつもより少女に嫌な汗をかかせた。


6月に入り上昇した気温と湿度のせいもあるが、今日から薄い生地の夏服に変わったことがおそらく影響している。


「もう、聞いてる?きみぽん?」


大股で一段飛ばしながら少し先を上っていた友人が振り返り、少し苛立ちながら聞いた。

彼女の方はスカートの裾など全く気にする様子もなく、初夏の風に任せてひらりひらりと揺らしていた。


「うん、だいじょぶ、聞いてる」


嫌な汗をかきながら、なんとか顔の表情筋を笑顔の位置にとどめた少女が答える。


遅れていた少女が追い付くと、二人は揃って上り始めた。

そして、歩道橋の上に着いた時、少女は終わらない友人の話に相槌を打ちながら、そっと振り返った。


歩道橋の下から30代くらいの男性が、無表情のまま、じっとこちらを見上げている。


少女と目が合っても動揺すらしない彼の姿に、小さくため息をついて前を向き、友人との会話に心を戻した。


***


「はぁぁぁぁぁぁぁ、ぁぁぁあああ」


授業終わりのチャイムが鳴り、公子きみこは大きくため息をついた。

また、あの公然ワイセツな歩道橋を通らなければならない。

考えただけでスカートの中がザワザワして不快な気分になった。


公子の住むY市を大きく縦断する大通りを横切るには、限られた道を渡るしかない。そのため、例の歩道橋を避けるためには、非常に大きく遠回りをすることになる。


一緒に登下校する『視えない』友人たちを毎日歩かせるには申し訳ない距離だった。


(まじ、毎日が憂鬱・・・)


そんな公子の憂鬱は、生まれた時から宿命づけられたものだった。


そろそろ帰ろうかー、と荷物をまとめて寄ってきた親友の千佳と彩芽に笑顔を向けて、公子は頷いた。


しかし、このまま何もしなければ、あの障害が消えることもないだろう。公子は少し考えて付け加えた。


「うちのお姉ちゃんに駅前のアイス買って帰りたいから、今日はちょっと遠回りして帰っていい?」


『視えない』友人たちは笑顔でOKのポーズを返した。


この日、公子は密かに戦う決意を固めていた。



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