第2話
目が覚めたのは真夜中、深夜2時。変な時間に寝たからすっかり目が冴えてる。洗面台の床から自身の身体を剥がして起き上がると夜風が部屋の中に入ってきていて昼間に比べて凉しい。けれど俺は窓を開けていない、窓はリビングにあるがリビングに行かずに此処で寝たのだから眠すぎて記憶がないなんてのはまずありえない。そう思いそっと洗面台の入口からリビングの方を除く。するとベランダに人が立っていた、こちらを見ていたようで目線があってしまい咄嗟に引っ込めたが明らかに気づかれた。泥棒だった場合何か凶器を持ってるかもしれない…何か武器になるものはないかと洗面台と風呂場を探す。ドライヤーで熱い風を浴びせる?シャワーで熱いお湯を掛ける?いや、熱いものが平気だった場合真っ先に殺される。足音が近づいてくると共に焦り手元が狂う。とうとう両肩に手を乗せられた、バッと後ろを向くと自分より少し背の高い男がいた。間違いない、さっきベランダにいた男だ。警戒して後退る俺を見て男は笑った。
「ごめんごめん、驚かせる気はあっても怯えさせる気はなかったんだ」
ヘラヘラと話すその顔に苛立ちを覚えたが降参するように上げた両手には武器は何も持っていない、何か行動を起こさない限り攻撃される心配は無いと見た。
「誰だ。俺が忘れてない限り、俺はお前を知らない」
「あぁ、そうさ。君は私を知らない。忘れたとかじゃないからそこは安心してくれ」
俺の言い方が悪かったんだろうか、安心要素が何もない。知らないやつがベランダから入って来たのだとしたら住居侵入罪だろう。警察に通報するのが良いのだろうが…そう考えていると男が近づいてきた。
「私の名前はアルベルト・ベルブロンド」
外国の人か?確かに顔立ちは日本人と比べて目鼻立ちがくっきりしてるし、目の色が鮮やかな黄色だ。それより、名前を言われたら此方も名乗るのが基本かもしれないが怪しい人に名前を名乗るのは如何なものかと思い黙っていると男は俺の事を舐めるように見てる。
「君、名乗らないなら私が名を付けようか………
勝手に名を付けられた、まぁ本名よりはマシなのだろうか?男は自身がつけた名前を褒め称えながらリビングに向かう。見てない場所で物を荒らされたら困るので俺も着いていく。男は歩きながら俺に語りかける。
「蝉ちゃん、私と一緒に来てくれないかい?」
「無理だ、行けない。学問があるからか」
大学だって、勉強して入ったのだから休めない、バイトもそうだ。家賃や家への仕送りも、やるべきことは山ほどあると自分の足元に目線を落としながら話す。他人との予定が何一つ無いのが話していて惨めになる。すると男の影と足が近づいてきた。
「どうしてだい?君は居場所がないと感じているのだろう」
そう言われ顔を上げると男は鼻がぶつかりそうな距離まで来ていた。笑みを浮かべているが目が氷の様な冷ややかさを籠めていて頭の余裕を奪っていく。目線に全身から嫌な汗が出てきて、冷静になれと脳で命令する度にそれとは真逆に焦り始め鼓動が速くなる。男は目を合わせたまま細めさらに語り始めた。
「私は君に居場所を作ってあげられる。こんな居場所がない場所に居るなんて愚行だろ?なぁ?」
詰め寄られるようなに返事する間もなく腕を掴まれ問われる
「来るか?来ないか?」
男の力が強くなっていく、腕がミシミシと悲鳴を上げ始め思わず頷くと男は満足気な表情をして腕を離した。折れていないか確認をするが、跡がくっきりついただけで折れてはいない。ホッとしたのも束の間、首の後ろに衝撃を感じて床に倒れる。目の前が暗くなろうとするから必死に意識を繋ぎ止めようとしたが虚しく目の前が暗くなった。最後に聞こえたのは男の声だ。
「おやすみ。八代弥櫨」
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