第1話
大学生2年生、
「よう、頼んだもん買ってきたか?」
「買ってきたよ。今出すから」
そういうと田澤は止めてきた。なんだと思い動きを止めて田澤を見ると手をこちらに出している。出してるからなんだ、犬みたいにお手をしろとでも言ってるのか?そんな犬みたいな事しないぞと止まったままでいると田澤は俺のエコバッグごと引ったくった
「ったく、俺が手出したらそれごと渡せよなぁ?お前はほんと鈍くせぇな、見た目は派手な癖によ」
そう田澤が言うと周りの奴らが笑う。確かに髪は染めて赤色だし目も赤色だ。これは生まれつきだが…恥ずかしさのあまり早く逃げ出したい衝動に駆られる。恥ずかしさのあまり目線を足元に移すと周りの奴らが笑って田澤も満足したのだろう。
「もう帰っていいよ。おつかれ」
と労う気が微塵も感じない言葉を俺にかけ、周りの奴らと俺のエコバッグを漁り始めた。中身はパシリとして渡されたメモのものしか買ってないが、エコバッグは自前なのだからせめて返してほしいと言うか言わないか迷っていたら、いつまで経っても帰らない俺を見て田澤が顎をクイッとした。「帰れ」と命令してるんだろう、ここに留まってもまた恥を晒されるだけだので渋々帰ることにした。河川敷に背を向けて歩き始めるとまた笑い声がしてきた。俺を嘲笑ってるに違いない、何も言い返せない悔しさと恥ずかしさで歩く足を速くして家に帰る。
真面目に生きろ、嘘を付くな、人に優しくあれ。家の教えを守って生きてきた、なのにいつからか常に苦しい。周りの奴からは「お前はもっと自己中で構わねぇ」なんて言われたが物心ついた時からこの教えを守ってたんだ、今更変えられたら苦労なんてしねぇよと心の中で何度も毒を吐いた。人に完璧に優しく出来る奴なんていない、俺みたいにみんな心の中で何度も毒を吐いてるんだ。どす黒い感情を頭の中で回しながら歩いているといつの間にか自身の家に着き、鍵を開けて家の中に入る。高校生の頃から一人暮らしをしているアパートの一室、誰一人として家に招いた事がない。そう考えると改めて惨めだと思った、思い出すと俺の人生全部惨めじゃないか。そう思うと何もかもが嫌になり、さらには布団に行くのも億劫になって手を洗ってそのまま洗面台の床に寝っ転がる。何かもが嫌になると床に落ちたように寝るのは昔からの癖だ。その度に祖母に落ちてるとからかわれた。懐かしい、あの時は生きることなんて考えてなかったからこそ何も苦しくなかったのに…いつから苦しくなったんだ?きっと、考えたって思い出せないだろうと早々に考えることを辞めて睡魔に躰を預けた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます