海と思い出と私

海は嘘をつけない

海へ行こうと思った。


しかも、何の前触れもなく突然に。


私の体が、海へ行きたいともがいていた。


海は私の家の近くにある、徒歩5分くらいのところ。


私はお気に入りの白いハットを被って、お気に入りのサンダルを履いて、

家の鍵を持って、外に出た。


夏のお昼ごろ。気温はかなり高かった。

だけど、そんなことは海を目の前にしたら忘れていた。


ザザーっと波が押し寄せる。


私はサンダルを脱いで、海の近くまで行ってみた。


水が近づいてきた。水が私の足にかかる。冷たくて気持ちよかった。


浜辺には誰もいない。今ここはたった私だけの空間。


私と海は今、一体となっている。


海の向こうから吹いてくる気持ちの良い微風そよかぜは、少ししょっぱかった。


自然をこの体で感じる。


深呼吸をすると、体内の隅々まで自然の空気が入ってきて血が巡りに巡って、余分な空気を吐くと、今まで悩んでいたあれやこれやが吐いた空気とともに逃げていく。


海は嘘をつかない。だから私も嘘をつかない。私と海は繋がっている。親密な関係。


海は、思い出深い場所であり、切ない場所。


あの人が言っていた。


”海へ行こうと思って。”


私がどうして?と聞く。


”海は人々の悲しさを全て受け入れてくれる。海は僕らを裏切ったりなんかしない。”


最初はよくわからなかった。


彼がいなくなった今、彼が言ったその言葉の意味がよくわかった気がする。

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海と思い出と私 @_harunohi_143

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