第3話:知的生命体。

普通ラブドールに生命が宿ることなんかありえない、

そこにはなんらかの力が働いていたのだ。

それは、まだ絵留がヘブンズ・ドアのショーウィンドウに飾られていた時のこと。


遠い銀河の果てから知的生命体が地球にやって来た。

生命体は物理的な存在としての実体を持たない有機体だった。

つまり人間のような肉体を持たず魂のように浮遊している生命体。

魂という物を見たことはないが人の肉眼では生命体はパチンコの玉くらいの

小さな光の玉にしか見えない。


基本的には人間や動物、物、形さえあれば何にでも寄生できる生命体だった。

生命体に雌雄があるならメスってことになる。


生命体は遠い故郷の星から家出して、もう何年も宇宙を彷徨っていた。

彼女にとっては初めての広大な宇宙への旅立ちだった。

流れ流れて悠久の果てにたどり着いたのが宇宙の辺境にある太陽系だった。

太陽に向かってひとつひとつ星を訪ねたが生命体らしきものがいたのは青い星

だけだった。


彼女はとりあえずその青い星に降りることにした。

緑も多いし、まあ空気はそれほど綺麗でもなかったが生きていくには充分だった。

しばらくは有機体のなまま、浮遊しながらその星の生態や環境を観察した。

そしてこの星は文明がそこそこ繁栄していてさまざまな生物がいることを知った。


その中でも二本足で歩く知的な生物がこの星の支配者だと言うことも分かった。

とりあえず、ここで生きていくためになにかに寄生しないと・・・ だけど飛び抜けて知能を持った生き物に寄生するのは自分と媒体の二つの思考を持ってしまうので

それはマズいと思った。

できれば知能なんかないほうがよかった。


有機体の彼女は浮遊しながら途方に暮れて街を徘徊していた、

そして彼女はある店頭の前に来た時、ショーウィンドウの中に飾られていた

綺麗な人形に魅せられた。

それがラブドールの絵留だったのだ。

有機体は絵留が生き物じゃないことを確かめると迷うことなくラブドールの

中に入っていった。


絵留に寄生した彼女はすぐにでも動くこともしゃべることもできた。

有機体だった時の彼女はテレパシーを使って相手に自分の思考を伝えていたが

もともと人並みの思考能力が備わっていた彼女は人間に混じって生活しても

なんら遜色なく日本語も普通にしゃべることができたのだ。


だけど、右も左も分からないない彼女・・・しばらくここにいて様子を見てみる

ことにした。


そして、毎日仕事場に通って来て自分のことを「絵留」って呼んで優しく声を

かけてくれる男性「西野 空」の存在を知った。

自分「絵留」を作ったのも西野 空だと知って絵留はますます空を好きになって

いった。

絵留が空のアパートに連れて来られる頃には有機体「絵留」の空に対する気持ち

は好きから愛に変わっていた。


ラブドールの絵留が動いてしゃべった奇跡のような出来事にはそう言う経緯が

あったからだった。

だけどそんなことを空に話したところで信じてもらえるとは絵留は思って

いなかった。

そんなSFまがいな出来事など・・・。


つづく。

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