第2話:自我に目覚めたラブドール。

「おやすみなさい」


って「絵留える」が応えたんだ。


「え?・・・なに?・・・なに今の?」

「今の誰が言った?・・・もしかしてこの部屋幽霊でもいるのか?」

「それとも僕の空耳?」


そしたら、いきなりだった。

絵留える」が動いたのだ。

そして空の顔を覗き込むように首をかしげると言った。


「幽霊でも空耳でもありません、私です」


「わっ・・・・わわ、「絵留える」が動いた?・・・でもって言葉をしゃべってる・・・うそだろ?」

「ミーガンじゃあるまいし・・・」


空は、あまりの状況に腰が抜けそうになってソファにへたれ込んだ。


しかも見た目、もうラブドールじゃないし人形特有の無機質な感じはなかった。

そこに人間の女性とまったく遜色のない絵留えるがいた。


絵留えるだけど絵留じゃない・・・君、だれ?」


「絵留だよ・・・空が私を作ったんでしょ?」

「私人形だけど空と同じよう人間に合わせて完全実写化しちゃった」

「だから、もうラブドール卒業」


「卒業って・・・こんな非現実的なことある?」


「そんなこといいじゃない・・・世の中には科学じゃ解明できないこと

だって、たくさんあるんだから・・・これはそのひとつだよ」

「でも、ごめんね驚かせて・・・」

「だけど私、ラブドールのまま、じっとしてるなんてできなくて・・・」


「いやいや、待て待て、ラブドールがなんで魂持ったみたいに動いて

喋ってるんだって話だよ・・・」


「それはね、空の念って言うか執念みたいなもの、または魂?が私を作ってる

間に私の体に入ったんだと思うの・・だからね、奇跡が起きたんだよ」


「念?・・執念・・・あ〜たしかに我を忘れて絵留を作ったからな」


「一時は私あのままゴミと一緒に捨てられちゃうのかと思っちゃった」

「空が部屋に連れて帰って来てくれてなかったら今頃、焼却炉の中だよ、私」

「せっかく生まれたのに、すぐに焼かれるって残酷だと思わない?」


「たしかに・・・ある意味ホラーだな」


「これからは、だれはばからず私たちラブラブで暮らせるね、ね、空」


「ラブラブって・・・」

「だけどいくら否定してもこれは現実だもんな、そうか・・・分かった!!

僕、まじで絵留を現実として受け止めることにする」

「いくら考えたって分かんないものは分かんない」

「そうと決まれば、絵留・・・服着てくれる?」

「今のままだと、落ち着かないから・・・」


「え?うそ・・・・きゃ〜エッチ〜どスケベ〜どヘンタイ!!」

「見たでしょ?私の裸」


「なに、ひとりで騒いでんの?」

「そんなもの絵留が仕上がっていく過程で裸なんてイヤってほど見てるよ」

「まるっきり大事な秘部も僕が作ったし・・・一番丁寧にやったけどな」


「うそ・・・もうどうしよう・・・恥かしい・・・私、死んじゃいたい」


「そんな大袈裟なもんじゃないだろ?」

「ラブドールってのは本来そういうもんだし・・・」


「私、もうラブドールじゃありません」


「お〜スタッフ細胞ありますってのと同じようなニュアンス」

「それなら余計・・・ずっと裸じゃいられないよね」

「毎日家に閉じこもってるなら別だけど・・・」


「おうちに閉じこもってるなんてイヤ・・・」

「空、私をお買い物に連れてって?」


「俺が着てるこのパジャマ・・・よかったら着る?」

「女の子がさ・・・男物のパジャマ着るとめちゃ可愛んだよ」

「ムラっと来てそのまま、ソファに押し倒しちゃったらどうしよう」


「やっぱり普通の服出そうかな・・・ああ、待てよ僕のトレーナーなんか着せたら

またほら「手が袖から出ないんだけど〜」なんて言っちゃって、それもめっちゃ

可愛いだろ・・・やっぱり女モノの服がいるかな」


「空・・・なにひとりでブツブル言ってるの?キモいよ」


つづく。

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