第138話振り回されて

「ところで皆さん何で砂まみれなんです?砂遊びしてたですか?」

お前のせいだよ!って叫びたいところをなんとか抑える。

「すみません、砂を落とすので待ってもらえますか?」

ミリアと名乗った少女は素直に待ってくれた。



砂を落としきったところで今後の予定を聞いた。

実はいつ着けるか正確な時間がわからなかったため着いた後の予定は着いてから聞くことになっていた。

「目的地までは数日かかるです。夜は近くの村か野宿になるです」

移動魔法を使えば一発なのだがレクスに亜人の聖地では不用意に独自の魔法を使うなと言われる。

その力で侵略してきたと誤解されては困るし敵対したときのことを考えて手の内を見せない方が良いそうだ。そうは言っているがこちら側から敵対することはないだろうともレクスは言っていた。

「了解した」

「ところであなたが馬車を?」

突然で悪いかとも思ったけど気になってたことを聞いてみた。

「はいです。こう見えて馬人族です。脚力と体力は自信あるです」

なるほど。なら馬車みたいなものなのか?

とはいえ見た目は完全に人のため少し気が引ける。

「さあ、出発です!皆早く乗るです」

背中を押して強制的に馬車の中に入れられた。馬車を引いていけるのも納得のすごい力だ。

馬車の中は詰めれば8人は乗れそうな広さだった。ゆとりを持てるように気遣ってもらったのだろう。

皆が席に座ると待ちわびていたかのように馬車が動きだし加速していく。

それにしても揺れが少ないな。馬車を引いているミリアの腕が良いのか、馬車が高性能なのか。


僕たちの座席はコの字で入り口から左側がレイとリーセス。奥にノインとレクス。右側に僕とマイとなっている。

奥以外はもう一人ずつ入れそうなので8人は乗れるだろうと推測できた。



しばらくして勢いよく進んでいた馬車が急停車した。

何事かと僕たちが降りると、

「着いたです!」

紛らわしいな!中に人がいるときぐらい安全に止まろうよ。

そう思うが姿は本当に人にしか見えないミリアに運んでもらっているということを考えると言えなかった。

「説明してくるです!」

こうして見るとやはり体力があるのだと感じることができた。

「なんやすっごい元気やな」

「そうだな」

純粋に同意する。

「元気な子が好きなの?」

リーセスがレイの追求を受け始めた。

他人のピンチは見ていて楽しいものである。

「カイ君?」

あっ!こっちもでした。僕同意しただけだよ?


せっかく移動で疲れなかったのに精神的に疲れてしまった。



「エ、エラッラリー。ミシッタヌー、ルーレイホー」

僕たちが立ちよった村で歓迎の宴が開かれているた。

先程のよくわからない言葉を歌いながら数人の獣人が焚き火の周りを回っている。

すごいのは高いジャンプを前後で交互にしていることだ。

なぜかすごく歓迎されている。それをレクスに聞いてみると、

「人が珍しいのだろうな。だが、人間の大陸に行くと差別の対象になってしまう。わざわざここまで差別をしに来る人間はいないから友好的なのだろう」

なんか獣人族が可愛そうになる話だな。

「でも、人と見分けつかなくない?」

「一度入ってしまえばな。だが、海を越えて着いた先では亜人の整地から来たからと獣人ではないかという疑惑の目で見られる。そうしてそれを払拭する手段を持たないものは徐々に差別の対象になる」

「どうにかなんないのか?」

「他国のことだからなどうしても強く言えない。それと要求を飲ませるためにはこちらも相手の要求を飲まなければならない。何度か交渉したみたいだが相手からの要求が無茶なものばかりで失敗に終わったらしいな」

「その国腐ってるな」

「まあ、その面を見ればな。だが、国同士の交渉なんてそんなものだ」

ここでレクスの悔しそうな顔に気づきそれ以上何も言えなくなった。



翌日朝。

僕とマイに割り当てられた二人部屋で寝ているとドンドンと音が聞こえた。

「おはようです!起きるです!おはようです!起きるです!おはようです!起きるです」

壊れた目覚まし時計のようにずっと繰り返された

そこまで繰り返し言われると何事かと急いで玄関に向かい扉を開けたが、

「おはようです!起きるです!おはようです!起き・・・・・・おはようです!準備できたら出発です」

そう伝えた後すぐに去っていった。

言わずもがなミリアだったが朝から凄い元気だった。

寝起きの頭ではそう考えるのがやっとだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る