第85話出発前日

翌日。

出発が明日に迫った今日、僕達は準備をする………わけではなく2人の時間を楽しんでいた。

理由は色々とあるが大きな理由は3つ程ある。


1つ目は準備をすると言ってもインベントリがあるので時間がかからない。

戦闘面も今からやったところであまり効果はないし付け焼き刃に命はかけられないためやることがない。


2つ目は考えたくはないがこれが2人で過ごす最後になる可能性があるためだ。

後方とは言え戦争のため何があるかわからない。

それに僕は王国側が危なくなれば前線に出る可能性もある。

当然死ぬつもりはないが後悔しないためだ。


3つ目は昨日僕が昼寝をしてしまった理由を話したからだ。

他の2つの理由はほぼ後付けでこの3つ目の流れでこうなっている。


家でずっと話していても良かったのだが少し出かけることにした。

行き先は王城である。

顔を覚えられ顔パスで入れるようになった僕達は直でレクスの部屋に向かった。

扉を開けるとローゼさんがレクスを怒っている感じだった。

ノックをしなかったことを後悔していると2人の視線がこちらに向いていることに気付く。

「失礼しました!」

巻き込まれたくなかった僕は足早に立ち去ろうとする。

「ま、待て!折角良いところにじゃなくて……来たのだから帰るな」

レクスは必死に僕を止めようとするが僕の動きは止まらない。

「お気遣いありがとうございます。先ほどのは後回しにしますのでゆっくりしていってください」

ローゼさんにまで呼び止められた。

その言葉でレクスが少し青ざめていたが気にしない。

「それならお言葉に甘えて」

「失礼します」

僕とマイは部屋に入る。


「来たと言うことは何か用件があるのでしょう?」

「ええと、戦争に行くから一応挨拶しとこうと思って………ローゼさんはここにいるかと」

「確かにほとんどここにいますね。最近王城で住んでますし」

「え?」

いつの間に。

「また命を狙われる可能性があるからとレクスが手配してくれたのですわ」

「おお!やるな、レクス。あんなに焦ってた人の対応とは思えないわ」

「おい!その話は出すなと言っただろう」

「別に良いじゃん。ここにいる全員知ってるんだから」

「あはは」

マイは笑って誤魔化している。

面白くって僕が詳しく教えたからな………

「私は初耳ですわ」

あれ?ローゼさん知らないのかな。

この機会に教えとこう、面白いし。

「えっとローゼさんが毒盛られたことがあったじゃないですか……………」

「おい!」

「レクス!……………続けてくださいまし」

こ、怖……………

ちょっとレクスが可哀想になってきた。

でも、ここで言わなかったらさっきのが僕に飛んできそうなので言うことにする。




話し終えるとローゼさんは微妙な顔をしていた。

先程まで怒っていたからかな。

「そうだったのですか……………嬉しいですけど不安が勝ちますわね」

ローゼさんは次期国王であるレクスがそこまで焦ってしまうことに不安を覚えたらしい。

しかし、嬉しさもあるので何も言えないという感じだった。


「あら、話がそれてましたわね……………十分に気を付けて下さいね」

「はい。それでは失礼します」

長居するつもりはなかったためそう言いながら部屋を出る。


その後は街に出て目的もなくふらついているととある店で2つのアクセサリーが目についた。

細いブレスレットのようなその2つは他と違い装飾が無い。

「お!お客さん、そいつに目をつけるとはお目が高い。そいつは製法不明。この世にこの2個しかないと言われている。と言っても魔力を込めると光る位しか効果が無いんだけど………少し値段は張るがそこの可愛いお嬢ちゃんとお揃いでどうだい?」

胡散臭いとも思ったが商品の良い点だけで無く悪い点もしっかり話していたのでもしかしたら本当に製法不明のものなのかもしれない。

値段もアクセサリーにしては高いが余裕で払える価格だった。

そのため買うことにした。

魔力を込めると光るというのも気になるし、何よりお揃いのアクセサリーに凄い憧れがあったのだ。


家に帰ってから2人で魔力を込めてみると僕のは緑に、マイのは青に光った。

色が違う事に少し驚いたがこの世に2つしかないのかは不明だが魔力で光るというのは本当だったらしい。


その事に満足した僕達は夕食をスタール亭で食べることにする。

ロヴァイトさん達にはもう挨拶はしていたが最後になるかもしれない夕食を家族と食べた方が良いだろうと思い提案した。

そんなこと言えないからロヴァイトさんに話があるという理由にしたけど。

まあ、嘘ではないので許して欲しい。


夕食は、僕が家族団らんの邪魔にならないように話を振られない限り静かに食べるようにした。


夕食を食べ終わった後、僕はロヴァイトさんにおまじないをすると言い、それっぽいことを言いながらロヴァイトさんの頭上にある魔方陣を浮遊させる。

天使の輪みたいなイメージで良いだろう。

その魔方陣は常時透明で自動で防御してくれる優れものだ。

そして自動で追尾してくれるため持ってなくても良い。

しかし、1つ欠点があった。

それは自分の魔法も打ち消してしまうこと。

つまり、魔法を使わないロヴァイトさんにはメリットしかない魔方陣なのだ。

僕も剣だけで戦うときには欲しいとは思うが咄嗟に魔法が使えないのは不便だ。

これも夏休みに作ったものだがあまり実用性が無かったため存在を忘れていた。

昨日インベントリの整理をしていたときに見つけロヴァイトさんにと思ったのだ。


何故おまじないと言ったのかというと一番恐いのは油断だからだ。

ロヴァイトさんが油断する事は無いとは思うが念のためだ。

その後マイに自分にもやってと言われたのでそれらしき事を言うだけにした。

防御も万能では無くこちらの攻撃が出来ないとなるとじり貧になるのは目に見えていたからだ。


こうして出発の前日を過ごしたのだった。

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