第84話ハンバーグ

翌日、学校。

明日からは戦争が終わるまで休みになるので休み前の学校だ。

しかし、皆の雰囲気は重い。

僕も日本で学生だった頃は警報が出て休みになるのを望んでたりしたけど流石に戦争のため浮かれることが出来ないのだろう。

そういう雰囲気ではあったがいつも通り授業が進んでいきクラブ活動の時間になる。

そこでノインとレイ、丁度見に来ていたベン先生に戦争に行くことを伝えた。

初めは心配してくれていたのだが、

「俺も連れて行ってくれ」

「わ、私も」

「生徒だけ行かせるわけにはいかないから俺も頼む」

なんと3人とも同行を志願してきた。

困った僕は近くにいたレクスを見る。

「はぁ、私にふるなと言いたいところだが……………しょうがないか。ノイン達は親に許可をとってからにしろ。先生は校長先生から許可をとってください」

凄い、すぐにさばききっちゃった。

こういうときは頼りになるよな。

「こういうときはとは何だ?それではいつもは頼りにならない事になるじゃないか」

「あれ?声に出てた?でも、前はめっちゃ焦ってたくせに」

「おい、その話を蒸し返すんじゃない!」

唐突に追いかけっこが始まった。



「本当に仲がいいですよね」

これは追いかけっこを見ているレイの言葉である。

「本当にな。俺でもあれはできないし」

自分があまり礼儀正しくはないことを自覚しているノインでも王子と追いかけっこはできないようだ。

「私はあの様子を心配すればいいのか喜べば良いのか……………………………」

マイは婚約者が王子と仲がいいのを喜ぶべきか不敬ととられないか心配すれば良いのか悩んでいる。


この中にただ1人怒っている者がいた。

「教室の中で走るな!!」

ベン先生である。

彼の中では先生の前でも素を出してくれることへの嬉しさよりも先生の前で教室で走り出すことが許せなかったようだ。


その後当人たちはすぐに謝ったがしばらく説教が続いた。

それは戦争への不安を払拭しようとするものだったのかもしれない。






翌日、家には僕とライしかいない。

マイは小学校、中学校の友達に話に行ったためいない。

マイがいないこの家は本当に久しぶりだ。

前世ではペットすらいなかったのにこの状況を寂しく感じてしまう。

その寂しさを感じないようにライと遊んだりしてたのだがそれでも寂しい。

誰かが来たときにボロが出ないように普段は喋らないようにしてもらっているので話すことも出来ない。


少し考えた末、準備をすることにした。

といっても新しい魔法のアイデアは出てこないのでインベントリを整理するぐらいしかすることがない。

そのためすぐに終わった。

その他にやることがなくボーッとしているとそのまま寝てしまっていた。




数時間後帰ってきたマイはただいまと言いながらリビングに入る。

が、カイからの返事がなく姿もなかったため他の部屋を探し始める。

レクスが用意したこの家は無駄に部屋が多いが使っていない部屋もあるため自室にいたカイを見つけるのは容易だった。

マイはまだ眠っているカイに自分が羽織っていた薄い上着をかけ静かに部屋を出ていく。


マイは気付いた。

カイ君が昼寝をしているところを初めて見たことを。

マイは考えた末疲れているのではないかという結論に至ったためおいしい夕食を作ろうと買い出しに出かけるのだった。


カイが起きるとおいしそうで少し懐かしいような匂いが家中に漂っていた。

そしてマイの上着がかかっていることに気付き自分が長い時間寝ていたことに気付く。

急いでリビングに行くと丁度マイが出来上がった夕飯を並べていたところだった。

「ごめん、寝てた……………あれ?これって」

目に入ったのはいかにもハンバーグだった。

前にマイに聞いたのだがあまり地球の料理はないらしい。

その時にハンバーグにしたハンバーグの話を覚えていたのだろうか。

僕はだいたい家にあるもので適当に作っていたが、ハンバーグだけはこだわって作っていた。

というのも料理の中で一番といって良いほど好きだったのだ。

これを言うと子供っぽいと言われそうだったため口外したことがなかったがそもそもハンバーグがないこの世界でそういう概念はないため話したのだ。

こだわっていたレシピと共に。


「おはよう。ハンバーグを作ってみたよ………どう?」

「か、完璧だよ!」

思わずマイの手を両手で握り上下に振ってしまう。

「そ、そう?食べようよ」

少し勢いにおされていたマイが食べるように促す。

僕は急いで椅子に着くとすぐさま一口目を食べた。

それはまさしく前世のものと同じ、いやそれよりも肉がジューシーでおいしかった。


夢中で口に運んでいる内にハンバーグは無くなってしまった。

「………おいしかった~」

「今までで一番反応が良かったね。これからも定期的に作ろうか?」

「お願いします!」

この時マイが神様のように見えたのだった。

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