第7話 卒業とソロ活動と

 僕は必死で門まで走った。

 

 するとそこには師匠に身重の母さんにマリアちゃんまで待っててくれていた。母さんは門衛さんのご好意だろうと思うイスに座ってたからホッとする僕。


「おいおい、お前にしては遅かったじゃないか、ロウト」


 師匠にそう声をかけられた。


「ロウトさん、無事に帰ってきてくれて良かったです」


 とマリアちゃん。


「あらあら、私の台詞セリフをマリアちゃんに言われてしまったわ」


 とニコニコ笑顔の母さん。


 そんな3人に僕は、魔術ザックから二羽の火喰鳥を取り出して見せる。そして


「ハンター、ロウト! 師匠からの卒業試験を無事に果たして来ました!! 明日より、本格的にハンターとして活動を始めます!! 街のみんなに誇って貰えるようなハンターを目指す事を、ここに誓いますっ!!」


「ウォッ!! 二羽も狩ってきやがったのか! そりゃ合格も合格、大合格だ!! 良し! 俺からロウトのランクをDにするように推薦を出しておくぞ」


 えっ!? いきなり一人前だと言われるDランクへの推薦を!?


「何を驚いた顔をしてるんだ、ロウト。ハッキリ言って実力をかんがみるならCランクでも良いぐらいなんだぞ。だが、ロウトはまだ十五歳と若い。いきなり高ランクだと妬む奴も多く出てくるかも知れないからな。始まりはDランクにしておけ」


 いえ、僕は普通にFランク始まりでも良かったんですけど…… そう師匠に言ってみると、


「ロウト…… Fランクで火喰鳥を狩れる奴はいないんだよ。火喰鳥を狩れる時点でDランクは確実なんだ。ま、Dランクでも狩れる奴は殆どいないがな」


 なんて言われたよ。そこまで言われて固辞するのも何だから僕は師匠にお願いしますと言って受ける事にしたんだ。


 そのままギルドに行って火喰鳥を卸して一部のお肉を受け取って、今日は母さんたちと一緒に新居で師匠からの卒業祝いをしてもらった。


「ふう〜、食べた。マリアちゃんの料理は美味しくてつい食べ過ぎちゃうよ」


 って僕が素直な感想を言葉にしたら


「フフフ、そうねぇ。マリアちゃんならきっといいお嫁さんになるわね」


 なんて母さんが含み笑いをする。師匠も母さんの横でニヤニヤしてるよ。僕もマリアちゃんも顔が赤い。


 そんな風にお祝いもしてもらい自分の家となった場所に帰ってからじっくりと今後について考える。もしもまた、さっきのようにクエストターンに入ったなら僕はまた勇者ロウトとして戦うこおになる。それをあまり人に知られたくはないな。


 そう考えた僕はやはり師匠のようにソロハンターとして活動していく事を心に決めた。

 幸い、魔法はクエストターン以外でも使えると技能の声が教えてくれたからソロでもそれ程の危険は無いと思う。


 翌日は休息日として家でハンターとしての装備の点検を行っていたんだ。弓矢を良く見て自分で治せる程度のものならば治そうと思ってたけど、そんなに痛みなどは無かったから直ぐに終わってしまった。

 それならばと僕は草原に向かい、森の入口近くであまり人が居ない場所で魔法を使用してみる事にした。


「えっと、魔法を使うにはどうしたら良いんだろ?」 


 と誰も居ないのを確認してからそう独り言ちると目の前に前世のゲームと同じウインドウが出現したんだ。


「うわっ、いきなりだな! でもこれで魔法が使えるのかな? 選択制なの? タイムロスが出ちゃうよね」


 そう思ったけど取り敢えず使ってみる事に。けれども……


「あっ、やっぱり! ゲームと同じで戦闘時じゃないと攻撃魔法や防御魔法は使えないんだ!」


 そう、前世でやってたハンタークエスト(ゲーム)でも戦闘時じゃないと攻撃魔法や防御魔法は使えなかったんだけど、その仕様は現実でも同じみたいだ。その代わり、補助魔法や回復魔法、空間魔法は使用出来るみたい。


 それならば狩りの時に補助魔法で自分を強化したら火喰鳥以上の獲物を狩る事も出来そうだなと考える。

 でも師匠から独立したての僕がいきなりそんな大物を狩ったら悪目立ちしすぎちゃうから自重しよう。


 こうして魔法が使える事を確認した僕は、明日は狩りの時に攻撃魔法や防御魔法が使用出来るかを検証してみようと考えながら家に戻ったんだ。


 家に帰るとマリアちゃんが入口前で立っている。


「マリアちゃん、どうしたの? ごめんね、ちょっと出かけてて。かなり待ったかな?」


 僕は慌てて駆け寄りそう声をかけると、マリアちゃんが首を横に振りながら、


「いえ、5分ぐらいしか待ってないです。ユリさんに頼まれて晩御飯をお持ちしたんです。食べて下さいね、ロウトさん」


 そう言って手に持っていた包みを僕に手渡してくれた。


「ホントに!? 有難うマリアちゃん。今から作るのは面倒だから何か買いに行こうかなって考えてたんだ。助かるよ」


 僕は買い物に行く必要が無くなったからじゃなく、マリアちゃんの手料理が食べられるのが嬉しくて心からの笑顔でそうお礼を言った。


 するとマリアちゃんがちょっとモジモジしながらこんな事を僕に言ってくれたんだ。


「あの、ロウトさん。明日から狩りに出かけられるんですよね? その、良かったら私が昼食用のお弁当をお作りしますけど、いらないですか?」


 うそ! まじですか!! いやいや、マリアちゃん! いらない訳ないじゃないですかっ!! いるっ! 絶対にいりますっ!!


「ほ、本当に? でも、僕は朝8時にはギルドに向かうと思うから、マリアちゃん早起きしないとダメになるし…… でもマリアちゃんのお弁当は食べたいし……」


 内心の葛藤がつい言葉として出てしまってたよ。


「あ、大丈夫です。私、朝は6時には起きてますから。ローンさんのお弁当もユリさんに代わって作ってますので、ロウトさんの分が増えても作る時間はかからないので」


 僕の葛藤を受けてマリアちゃんが慌てた感じでそう言ってくれたんだ。しかし、そうか…… 師匠の分をマリアちゃんが…… まあ、母さんが身重だから仕方がないとはいえ、ちょっと嫉妬してしまうな。という内心は隠して僕はマリアちゃんにちゃんとお願いをしたんだ。


「それなら、うん、よろしくお願いします、マリアちゃん。ちゃんと代金は支払うね!」


「いえ、そんな、私が作りたいから作るのに、代金なんていりません!」


 って言うけど僕は知ってるんだよ、マリアちゃん。母さんから渡されている給金の半分を施設に寄付してるんだってね。ローラさんから聞いてるんだ。だから僕はどうにかしてマリアちゃんに代金を受け取って貰いたい。それも、僕が支払う代金はマリアちゃんの為に使って欲しいんだ。


 そこではたと思いつく。そうだ! 僕はもう成人になったんだ。マリアちゃんは来年だけど……


 男、いや、おとこだろ、ロウト!!


 言え、言うんだっ!!


 僕は自分を鼓舞してマリアちゃんをしっかりと見つめて言った。


「あの、その、マリアちゃん…… 僕は今年から一人前のハンターとして活動を始める。そして、来年のマリアちゃんの誕生日までにランクをDからCに上げて見せるから、その時は僕といっひょ、いや、一緒になってくれますか?」


 ちょっと噛んじゃったけどちゃんと言えたぞ!

 さあ! マリアちゃんの返事は!?


「エッ!! あの、その、ロウトさん、ホントに…… ですか…… その後でウソだったとかは言わないですか……」


 アレ? ひょっとして僕って信用ない?


「絶対にそんな事は言わないと神様に誓うよ! 僕はマリアちゃんをあいひて、いや、愛してるんだ!!」


 とちょっと信用ないのは傷ついたけど、信じて貰うためにちゃんと言う。


「嬉しい!! はい! ロウトさん! 私もロウトさんが好きです! 来年、私が成人したらよろしくお願いしますっ!!」


 そう言ってオーケーしてくれたマリアちゃんは感極まったのか、僕にしっかりと抱きついてキスまでしてくれたんだ。

 オオウッ!! キスってこんなに気持ち良いんだっ!!


 とそこにお邪魔虫が…… パチパチパチパチと拍手を響かせてその場に現れたのはローン師匠だった。


「いや〜、やっと言ったんだな、ロウト。俺やユリはいつ言うのかってヤキモキしてたんだぞ。これでマリアもうちの娘になったな!! ユリが喜ぶぞ!!」


 師匠、出てくるタイミングが早すぎです。僕はもう少しマリアちゃんの唇の感触を感じていたかった……

 師匠が現れたからパッと僕から離れて顔を真赤にしているマリアちゃん。まあ、僕の顔も赤いだろうけど。


「師匠、いや、ローンさん! 明日からはライバルですからね! 僕の方が多くの獲物を獲ってきてみせますからっ!!」


 僕は師匠にそう宣言をする事で照れを隠したのだった。


 明日から頑張るぞ!!




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る