第6話 そして3年後
僕は気づけば明後日で十五歳になる。最近は師匠も僕に教えることは全て教え尽くしたと言って別れて狩りをしているんだ。
今の僕は兎だけじゃなくて危険だと言われる猪の魔獣や鶏の魔獣、そしてトカゲの魔獣も単独で狩れるようになってるんだ。
「3年間、本当に良く頑張ったなロウト」
師匠にそう褒められているけどまだ2日ありますからね、師匠。
「僕としてはまだまだ教わりたいのですが、何時までもお世話になりっぱなしという訳にはいきませんからね。2日後に十五歳になったら僕は師匠の家を買取しますから母さんと二人きりで新居で心置きなく過ごして下さいね」
そう、僕は一人暮らしする事にしたんだ。師匠が購入した方の家は僕と母さんが住んでた家よりも少し小さめだから一人で暮らすのにちょうど良い。だからその家を師匠から買い取って暮らす事を決めてあるんだ。
師匠と母さんは街の中心部よりに新居を購入したんだよ。あと2日後には二人でそこに住む事になっている。
そうそう、今、母さんのお腹には僕の弟か妹がいるんだ。今年の秋に産まれる予定なんだ。僕はとても楽しみなんだよ。きっと師匠と母さんに似た優しい子が産まれるだろうね。
それから、施設に居たマリアちゃんは師匠と母さんの新居に住込みのメイドさんとして働きに来てくれる事になったんだ。僕より一つ年下のマリアちゃんは十四歳になったから施設から出なくちゃいけないんだけど、レストランとかで働きたくないって言ってたんだ。
この街のレストランは女性が厨房に立つのはダメっていう風潮があって、働くとなると女性は給仕に回されるからね。
それを聞いていた僕は師匠と母さんに打診してみたんだよ。とても料理上手で、一通りの家事全般が出来る知り合いがいるけど、メイドとして雇わないかってね。
母さんは雇うかどうか決める為に一度会いたいって言うからマリアちゃんに家に来てもらったんだけど、一目で気に入ったみたい。
その面接の帰り際にマリアちゃんに、
「ロウトの事をよろしくね」
なんて言ってたらしいよ。師匠が教えてくれた。
「ハッハッハッ、マリアも満更でもなさそうだったぞ。良かったな、ロウト」
はいはい、師匠。弟子をからかうのは止めて下さいね。まあ、それを聞いてつい顔がニヤける僕も僕だけどね。
こうして2日はあっという間に過ぎて、僕は卒業試験を受けている。
今日の僕が持ってる得物は弓矢。遂に師匠から火喰鳥を狩って来いと言われたんだ。
僕は師匠に教わった狩り場へと静かに近づいていく。火喰鳥の気配はある。けれども二羽いるみたいだ。師匠からは二羽いるならば止めておけと言われている。
一羽を狩ってる時にもう一羽に火を吹かれるからだ。けれども僕は挑戦したい。なので位置取りを慎重に決める。
火喰鳥は低空で短い距離なら飛べるけれども高くは飛べない。なので僕は木の上から一羽目を弓で狙った。
僕の放った矢は狙い通り一羽の火喰鳥の首に刺さる。
それで僕を見つけたもう一羽が喉を大きく膨らませる。火を吐くつもりだろうけど、遅い!
僕は木から飛び降りてその膨らんだ喉を刀で斬り裂いた。
喉に貯められていた火の魔力が霧散する。
やった! 上手くいったんだ!!
僕は手早く首を切り落として血抜きを行い、魔術ザックに二羽を入れた。
そして師匠へ報告する為に街へと向かおうとした時に、ソレは現れた。
「なっ、何でこんな所に魔物がっ!?」
僕の前にはニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながらこちらを見ているオークがいたんだ。
通常、オークは森の奥で暮らしていて人の居る場所には近づいて来ない筈なのに……
そのオークは手に棍棒を持っている。その棍棒を振り上げて僕に襲いかかってきた。
振り下ろされた棍棒は何とか躱したんだけど、体当たりを食らってしまい、僕は吹き飛ばされて木に頭を打ち付けてしまった。意識が遠くなる……
不味い、今意識を失ったらオークに殺されてしまう……
そう思いながらも僕の意識は途絶えていった……
『お〜い、
誰だ? 僕に向かって話しかけてきてるのは?
『おいおい、僕が誰だか分からないのか? 同じクラスのトオルだよ! どうしたんだ、路草?』
トオル…… とおる…… 透!?
『あっ、ああ、トオルか。何だって?』
『チェッ、ホントにどうしたんだよ、路草。だから、ハンタークエストはもう攻略したのかって聞いてるんだ?』
そこでまた場面が変わる。
『おい、ミチクサ〜、コレもやっておけよ〜。お前のノルマだからな!』
『いや、コレは先輩が部長から言われた……』
『あ〜ん? お前、何を言ってんだ。可愛い後輩が成長出来るように敢えて仕事を回してやってるんだろうがっ!! 有難うございますって言って素直に受け取れやっ!!』
『はい…… 有難うございます……』
思い出した!! 僕は(俺は)、勇者ロウト(
余りにも膨大な記憶が僕(俺)の脳に流れ込んできて、そして一つに融合した。
良かった、僕は僕のままだ。でも、以前までの僕じゃなくなったのも事実だ。
そして僕は授かった技能の意味をしっかりと理解していたんだ。
目を開けるとまだオークは僕を吹き飛ばした体勢のままだった。意識を失ったけど刹那の時だったみたいだ。
僕の脳内に技能の声が聞こえてくる。
『クエストターンに入りました、セーブデータ1が使用可能となりました、使用しますか?』
「勿論、イエスだよ!!」
『セーブデータ1を解放します。それにより装備が変更。鉄の胸当て、バックラー、リザードンのブーツ、鉄の剣…… 現在お持ちの刀の方が上位武器です。武器の変更は中止します! ご武運をお祈り致します!』
その声と共に僕は前世でやり込んだゲーム、ハンタークエストの主人公、勇者ロウトの装備していた防具を身に着けていた。武器だけはこの世界で手に入れた刀のままだ。
何故かオークに吹き飛ばされて怪我をした頭の傷も無くなってる。
突然立ち上がり、その上見た目が変わった僕をみてオークは戸惑っているようだ。
「隙ありだよ!!」
僕はその隙を見逃さずにオークに肉薄して刀を振った。刀は戸惑っていたオークの棍棒を持っていた手を切り飛ばしていた。
「グギャーッ!! オウッ、オウッ!!」
僕が切った場所に無事な手を当てて痛がるオーク。その背は丸まり首の後ろが背後に回れば見えている。僕はそのままその首に刀を振り下ろした。
コロンという音がしてオークの首が落ち、そして、その体がバフッという音と共に消える。後に高級サーロインと金貨二十枚が落ちていた。
『クエスト達成を確認しました。セーブデータ1を抹消します。次回、クエストターンに入るまでセーブデータ2は使用出来ません。装備を元に戻します。ここで、一つだけお知らせしておきます。勇者ロウトとしての能力の一つ魔法はクエストターン以外でも使用可能となっております。有効活用を願います。それでは、次回のクエストターンまで休止状態に入ります』
そう言うと脳内の声は聞こえなくなった。そうなんだ、僕はハンタークエストの世界に転生したんだね。それも主人公である勇者ロウトとして。
でもゲームとは違って僕は現実にこの世界に生きている。だから何もかもがゲーム通りだとは限らない。
これからも注意して生きていこう。
それに、ゲームではこんなオーク戦はなかったからね。僕が今日まで生きてきた常識だと魔物たちは人に近づかずにひっそりと生きている筈なのに、今回、この場所までオークが出てきたって事は、何か異変が起こっているんだと思う。
僕はそれを探りながら大切な人たちを守る為にこの授かった技能【セーブデータ】を使用していこう!
そう心に誓って、僕は遅くなったと思いながら師匠の待つ街の門へと走り出したんだ。
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