第5話 兎肉は美味しかった
食材ギルドに戻りスライム9体を出すと1体が銅貨二十枚だったよ。素材ギルドの買取価格は1体が銅貨三十五枚になるんだって師匠に聞いてたけど、銅貨十五枚も差があるんだ。まあ、食材ギルドから素材ギルドに売る形になるからだろうけど。
それでも銀貨一枚と銅貨八十枚が僕の初めての狩りで得た収入だ。僕は師匠に1体分の銅貨二十枚を渡そうとしたけど、それも持っておけと言われたのでありがたく頂いた。
そうして初狩りを終えてから僕は週の2日休みで5日は師匠に教わりながら狩りの仕方やハンターとしての心得を学ぶ日々を過ごしていたんだ。
師匠は2日の休みのうちの1日を狩りにあてて自分の生活費にあててるそうだよ。
師匠が狩るのは魔獣と呼ばれる危険な存在。
特に火喰鳥を狙って狩ってるそうだよ。火喰鳥の買取価格は一羽で金貨三枚。師匠は毎回二羽を狩ってるから1日で金貨六枚を稼いでいるんだ。
普通に生活するなら一人なら金貨一枚あれば二ヶ月は暮らせるから師匠は大金持ちだよね。殆どをギルドに預けてあるのも家に置いておくと強盗なんかに狙われるからなんだって。
まあもしも強盗が来ても師匠なら返り討ちにしそうだけどね。
そして僕は今は
「ハッ!!」
「よーし! 良いぞロウト! 三羽までなら問題なく対処出来るようになったな」
「ハイ! 師匠、有難うございます」
師匠について学んで1年が過ぎ、僕の狩りの腕も上がってきたんだ。僕の授かった技能は発動方法が分からない謎技能だから地力をつける為に師匠に教わった刀の振り方の基本を毎日繰り返して、ランニング、腕立て、腹筋なんかもやっている。
普通の十三歳よりも力も早さもあるって師匠にはお墨付きを貰ってるよ。
それでも戦闘系の技能持ちの子には劣ってしまうんだけどね。まあ僕は英雄になりたい訳じゃなくて普通に暮らしていくだけの力を身に着けたいと思っているから良いんだけどね。ホントだよ。
僕は収入が上がって手に入れた魔術ザックに今倒した兎を解体してから入れる。解体技術も上がって兎なら一羽を5分で解体できるようになったんだ。
師匠は3分だけどね。僕も早く師匠並みに解体出来るようにならないとって頑張ってるんだけどね……
「ロウト、今日も施設に持って行くのか?」
「はい、師匠。素材ギルドに卸すのは六羽で、残りの五羽は児童保護施設に持って行きます」
そう僕は街で知り合いになった親が亡くなった子たちの暮らす施設へ狩りで獲った兎を持っていってるんだ。お礼として施設長さんからはその日の食事をご馳走になってるんだよ。他にも施設で育てている野菜と薬草を少し分けて貰ってるんだ。
野菜は母さんに渡して、薬草は師匠に教わって傷薬を作っているんだよ。
まだまだ未熟者の僕は解体の時に指を切ってしまうこともあるからね。
何で得た獲物をわざわざ施設に持っていってるのかって? 本来ならば僕を追い出した両親がその施設に対してちゃんと寄付金を入れてるならば問題無かったんだけど。
施設長さんに聞いたところ、領主様から貰える寄付金の額が前領主様から頂いていた寄付金の三分の一になったらしいんだ。
絶対に浮いたお金は両親の懐に入ってるんだろうね。
僕は血の繋がった両親の所業を申し訳なく思うとともに、せめてお腹いっぱい食べられるようにと兎肉を持って行ってるんだよ。まあ、僕の元の身分は明かしてないんだけどね。
ただ単に友だちになったからって事で狩りで得た獲物を持って行ってるんだ。
それに、施設で料理をしているマリアちゃんの作るご飯が劇的に美味しいのもあるんだ。僕は世界一の料理上手は母さんだと思ってたけど、マリアちゃんの方が上だったよ。
母さんの料理が美味しくない訳じゃないよ。今でも美味しいし、満足して食べてるんだけどマリアちゃんの作る料理は次元が違うレベルなんだ。
その辺のレストランの料理よりも絶対に美味しいと思うな。
そして、マリアちゃんはまだ十二歳なんだよ。料理の天才だよマリアちゃんは。
僕は素材ギルドに兎肉六羽分を卸してから師匠と別れて施設に向かう。
そうでもしないと母さんと師匠の二人きりの時間を作ってあげられないっていう理由もあるのは内緒だよ。師匠には母さんに晩御飯はいらないからと伝言をお願いしてあるんだ。
「あっ!? ロウトさん、こんにちは!!」
施設に入ると野菜を手にしたマリアちゃんが目に入った。
「あら、ロウトさん。今日も? いつも有難うございます。本当に助かるわ。子どもたちも大喜びしてるの。ここ最近はいつもお腹いっぱい食べられるって」
施設長のローラさんもいたようだ。僕の目にはマリアちゃんしか見えてなかったよ。
恋? うん、そうだね。僕はマリアちゃんに恋してるんだと思う。会えるととても嬉しいし、家に帰る時には寂しく感じるから。
「そうですか、良かったです。それで、今日は兎肉を五羽ぶん持って来ました。また夕飯をご馳走になってもいいですか?」
僕はローラさんにそう言うと、マリアちゃんが
「勿論です、ロウトさん! よーし! 今日は新しいレシピを試してみますね!! 楽しみにしてて下さい!」
とローラさんの許可を得ずにしかも僕から兎肉を受け取る前にキッチンに向かって行ってしまった。
「ウフフフ、マリアちゃんはロウトさんの事が好きだから張り切ってるわ。ロウトさん、勿論ですが夕飯を一緒に食べて帰って下さいね。子どもたちもロウトさんのお話を聞きたいと思いますから」
ローラさんからの許可も得て、僕は顔を赤くしながらマリアちゃんのいるキッチンに向かった。
マリアちゃんが僕を好き? 本当だったら嬉しいな。
キッチンに行くとマリアちゃんが二日前に渡した兎肉で料理を作ってた。
「マリアちゃん、こっちに新しい兎肉があるよ。それを使わなくてもいいの?」
と僕が聞くとマリアちゃんからは
「ロウトさん、私、発見したんです!! 少し日にちを置いたお肉の方が美味しいの!! ホントなんですよ!!」
って返事が。え〜…… 腐りかけじゃないのかなぁ……って内心は思ったんだけど目をキラキラさせて力いっぱいにそう言うマリアちゃんに僕はそうなんだねと言うしか無かったよ。
お腹を壊さないように気をつけて食べよう。
「今日持ってきたお肉はどうしたら良いかな?」
と聞くといつもの壺に入れておいて下さいって言われたから僕は一羽ずつ一つの壺に入れておく。
すると、やって来たローラさんがその壺五個を台車に乗せてどこかに持っていった。
「えへへ、施設の地下室に入れておくんです。地下室は少し寒いぐらいの温度だからお肉が腐らないんですよ」
ってマリアちゃんが教えてくれたんだ。そうだったんだ。疑ってごめんねマリアちゃん……
それからマリアちゃんの邪魔をしたら悪いから僕は子どもたち三歳〜八歳の男女七人がいる場所に向かう。
「あっ!! ロウト兄ちゃん!! お話聞かせてーっ!!」
「ロウトお兄ちゃん、この文字を教えて!」
僕を見つけた子どもたちが一斉にこっちにやって来てアレしてコレしてと言ってくる。初めは戸惑ったけど今ではすっかり慣れたよ。
「はいはい、順番だよ。今日は先ずは文字からだね。その後にお話をするよ」
そう僕が言うと素直に言うことを聞いてくれる子どもたち。良い子たちだよ。
楽しい時間を過ごしてたらローラさんが呼びに来たよ。
「さあ、みんなご飯ですよ。今日はロウトさんも一緒に食べますから、お行儀よくね」
「ハーイ!!」
そして食堂に向かうと見たことない料理が待っていたんだ。でもどこか懐かしい感じもして不意に僕の脳裏に【ジビエ料理】っていう単語が浮かんだんだけど、直ぐに消えたから気にせずに席についたんだ。
「新しい料理に挑戦してみたの。みんな食べて感想を聞かせてねーっ」
マリアちゃんがそう言ってからみんなで神様に感謝の祈りを捧げてから食べ始める。お肉は柔らかくてフォークで切れるんだ。ナイフ要らずなんて凄いね。一口パクリ…… …… ……
「アワーっ!?」
「ウワーッ!?」
「ヒャーっ!?」
あちこちで子どもたちの悲鳴が上がる。僕ももう少しで悲鳴を上げるところだつたよ。僕はグッと悲鳴を飲み込んで子どもたちの悲鳴を聞いて不安そうな顔をしてるマリアちゃんに向かって満面の笑みで言った。
「凄いよ! マリアちゃん! 物凄く美味しいよ!! 本当に少し置いたお肉の方が味が良くなるんだね!! これは凄い発見だよ!」
僕の言葉にマリアちゃんの不安そうな顔も笑顔になった。そしてあまりの美味しさから驚いた子どもたちも口々にマリアお姉ちゃん、凄いと褒めそやす。
そんな楽しい食事の時間を今日の僕は過ごしたんだよ。
ああ、兎肉、美味しかった!!
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