第4話 初狩りはスライム
結局、その後は師匠と母さんが契を結んだことでどういう風に生活していくかの話に2人でなってしまったので僕は2人におやすみなさいと言って寝室に向かったんだ。
心の中では2人をちゃんと祝福したけど、明日からの僕のハンターとしての教育はどうなるんだろうと心配でもあったよ。
気がつけば寝ていた僕はいつも通りの時間に目が覚めた。起きて顔を洗い朝食の準備をする。家では先に起きた者が準備するっていう決まりを僕が十歳になった時に決めたからだ。
準備を終えてそーっと母さんの寝室に向かう。ほら、師匠と同衾してたらまずいからね。まあそんな事もなく母さん一人で幸せそうな顔で寝ていたよ。
「母さん、朝食の準備が出来たよ。起きて」
「う〜ん、ロウト様、後5分……」
母さんは朝が弱い。なのでこれもここ2年の日常だ。僕が十歳になるまでは頑張って僕より早く起きてたみたいだけどね。
「母さん、早く準備しないとローン師匠がもうすぐ来るよ」
僕のその言葉に母さんはガバッと飛び起きた。
「ロウト、何でもっと早く起こしてくれなかっちの!?」
いや、母さん…… いつも通りだから…… そんなに慌てなくても大丈夫だから
「母さん、さあ起きて顔を洗って朝食を食べようよ。着替えも忘れずにね」
僕はそう言って食卓に向かうのだった。
いうもよりも入念に顔を洗い、そして薄化粧ながもバッチリとキめたメイクも冴える母さんが食卓に来たのは15分後だった。いつもなら5分もかからないのに今日は3倍も時間を使ってキめてきたみたい。
母さんが朝食を食べようとした時に扉がノックされたから食べ終えていた僕が出た。
「おはよう、ロウト。昨夜はすまなかったな。それで今から今日の打ち合わせをしようと思うんだが」
少し申し訳無さそうに言う師匠に
「はい、大丈夫ですよ師匠。朝食は済みましたか? まだなら直ぐに準備しますけど?」
僕はそう聞いてみた。
「ああ、実はまだなんだ。頼めるか」
「はい、それじゃ中に入って待っててください」
と食卓に案内する。食べ始めようとしてた筈なのに母さんはまだ食べてなかった。
「おはよう、ユ、ユリ」
「おはよう、ロ、ローン」
うん、安定のぎこちなさだね。そんな2人を見ながら僕は師匠の分の朝食を用意した。
「ロウト、料理が出来るんだな」
「はい、十歳から母さんに教えて貰って一通りは出来るようになりましたよ」
「そうか、それは他の新人ハンターには無いロウトの強みになるな」
師匠はそう言って褒めてくれた。師匠に用意した朝食を出すとやっと母さんも食べ始めた。師匠は食べながら今日の予定を話し出す。
「ロウト、今日は草原で食材ギルドの対象ではないがスライムを相手にしよう。買取りは食材ギルドでもしてくれるが、素材ギルドよりはその金額は安くなる。なので数をこなすのが今日の課題だ」
スライムか。魔物としては最弱といわれるスライムだけど油断は禁物。僕は分かりましたと師匠に答えて自分なりに脳内でスライムを狩るシミュレーションを組み立てる。
そして母さんが食事を終え、師匠も終えた。
「2人とも片付けは私に任せて行ってらっしゃい。ロウトは気をつけるのよ。ローンの言うことをちゃんと聞いてね」
おおう! 母親として僕に言う時は師匠の名をスムーズに言えるんだね、母さん。まあそんなツッコミは入れないけどね。
「はい、母さん。師匠の言うことをよく聞いて初狩りを成功させてみせます!!」
僕の教科書通りの答えに母さんは満足そうに頷き、師匠に向かって頭を下げた。
「ユリ、心配するな。ロウトはちゃんと無事に帰すからな」
師匠も僕が間に入ってたらスムーズに母さんを呼び捨て出来るんですね。子はかすがいって言葉が脳裏を通り過ぎたけど、聞き覚えがないからスルーしてしまったよ。
…… 3年後には分かるんだけどね。
「良し! それじゃロウトよ。行くぞ、草原にっ!!」
「はい! 師匠!!」
こうして僕はハンターとしての教育を受ける為に初狩りを始める事になったんだ。
草原に着くと師匠は先ずはスライムの見つけ方を教えてくれたんだ。
「いいか、ロウト。あの様に草が不自然に倒れているのは何らかの魔物や獣が通った後だと考えろ。何? 見た感じ不自然さは感じられないだとっ!! よーく見てみろ、
という感じで師匠は丁寧に僕に指導をしてくれたんだ。それによって、僕は何処を見れば良いのかを2時間もすれば把握していたんだ。
「よーし、ロウト。ようやく分かってきたようだな。それではその先に進んでみよう。慎重にな」
師匠の言葉に頷いて僕は慎重に先に進む。僅かな異変も見逃さないように周囲を良く確認しながらだ。なのでその歩みは遅い。けれども師匠は怒るどころか褒めてくれた。
「そうだ、それでいいんだロウト。自分の命が掛かっているからな。慎重なのは大切なことなんだ。慣れてくればもう少し早く異変を見つけられる。だが今はその慎重さを大切にしろ」
僕は師匠の言葉に頷きそのまま慎重に不自然に倒れた草を進んでいく。そして
「いた。あれがスライムか……」
ついに僕はスライムを見つけた。そこにいたのは半透明だけど少し水色がかった不定形のブヨブヨした塊だ。どうやら獣の死体を取り込もうとしているらしい。
僕は少し離れた場所から周りを警戒しながらもじっくりとスライムを観察する。その横で師匠が説明をしてくれている。
「いいか、ロウト。良く見ろ。ヤツの体の中を一辺5センチほどの四角いものが動いているだろう? アレが核だ。あの核を攻撃して壊せばスライムは倒せる。今から俺が手本を見せるから良く見ておけよ」
そう言うと師匠は腰のショートソードを抜いてスライムに向かっておどりかかり、正確に核をショートソードで切った。
それまでブヨブヨと動いていたスライムは一度だけ身を震わせて動かなくなる。
「とまあこんな感じだ。この死骸は全てが素材となるからそのまま持ち帰る事になるが素手で触るのはダメだぞ。さっき切った場所から体液が出ていたら手を溶かされてしまうからな。このスライムの皮を素材とした手袋を使用して収納ザックに入れるんだ」
そう言うと師匠は僕に手袋を手渡してきた。僕は言われた通りに手袋をはめてザックにスライムの死骸を入れる。
「見ていた通りに核は動いているがその速度は早くない。なので正確に狙って切る事が出来る。ロウトは昨日初めて買ったその刀を使って次に見つけたスライムを倒してみるんだ」
僕はハイ師匠と返事をして刀の柄をギュッと握った。屋敷にいた頃にローン師匠からは剣の振り方などを教わっていた。その後も教えられた事を欠かさずに毎日やっていたからその成果を見せる時がきた。
僕はまた慎重に動き、やがて先ほどとは違う少し赤みがかったスライムを見つけた。
僕は核の動きを確認する。よし、見えるしそれほど早くない。落ち着いていれば切れる。
僕は抜刀してスライムに静かにけれども素早く近づき刀を振った。
正確に核を切断できた。スライムがブルッと身を震わせてから動かなくなるのを確認してから僕は刀身を拭ってから鞘におさめた。
「よし、上出来だ。刀の振り方も良かったな。それに動かなくなるまで油断しなかったのも合格だ。更にはちゃんと刀身を拭ってから鞘におさめたのは教えてないのに凄いと思ったぞ」
満面の笑みで師匠にそう褒められて僕は少し照れながらも手袋を嵌めて初めての獲物をザックに入れた。スライムの死骸は一つ1キロ〜2キロぐらいの重さなので、まだまだ余裕だ。
「よし、今から昼までこの調子で狩っていくぞ」
師匠の言葉に僕は返事をして狩りを続けた。
昼に一度街に戻り昼食を食べてからまた草原に戻り狩りを再開する。
初日の僕の成果は師匠の倒したスライムを除いて8体のスライムを狩る事が出来たんだ。
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