第2話 ローン師匠

 僕の師匠になってくれたのは……


「お待たせしました、ロウト様。やっと解放されましたよ」


「ローン! 庭師を辞めたのっ!?」


「はい、ちゃんと退職祝いもせしめてきましたよ、ロウト様」


 片目をつぶり笑顔でそう言うローンが僕のハンターとしての師匠になってくれる事に決まったんだ。


 どうやらローンは屋敷の庭で手入れをしている時に両親の会話を聞いたらしくて、それで僕を助ける為に安定した仕事を辞めてハンターとしてカムバックしてくれたんだ。

 僕は嬉しくて泣きそうになったけど、グッと堪えてローンに言った。


「今日からよろしくお願いします! ローン師匠!」


「勿論だ! 今日から3年間はロウトと呼び捨てさせて貰うからな。口調もハンターとしての言葉になるぞ」


「はい! 師匠!」


 僕とローンのやり取りを見てた受付のオジサンが、


「爆狩りローン復活!! これでうちの支部がまた1位に返り咲きだぁーっ!! そして私の給与も評価も上がり、出ていった妻も子も戻ってくるはず!!」


 と大きな声で叫んだよ。 


 えっと、家庭の事情をそんな大きな声で言っていいのかな? そんなオジサンに師匠が言った。


「レードン…… お前の妻も子も既にこの街から出ていってるぞ。何でも聞いた話じゃお前と別れたと聞いた故郷にいる幼馴染が求婚してそれに応じたって言ってたぞ」


 ガーーーーンッ!!


 っていう擬音が聞こえそうなほど落ち込むオジサン。そっか、お名前はレードンさんって言うんだね。


「さて、ロウト。先ずは装備を買いに行こう。俺の行きつけの店に行くぞ」


「はい、師匠。お願いします」


 僕たち二人は落ち込んだレードンさんを放置してギルドを後にしたんだ。 


「俺の行きつけの店ならば中古品でも修繕してから売ってあるからな。その分、他の店よりも値段は高いが足りない分はツケがきくから大丈夫だ」


「そうなんですね。それなら助かります。予算は銀貨一枚しかないので」


「銀貨一枚か。それならば片手剣に小型の盾で終わるな…… だが革の胸当ては欲しいし、頑丈なブーツも必要だ。胸当てとブーツはツケにしてもらおうか」


 そんな会話をしながらギルドを出て歩くこと十分。


「ここだ」


 と師匠が指した店から一人の男性が放り出されてた。


「お前さんに売る武器は何もないわっ!! とっとと出ていけーっ!!」


 店の入口で叫んでいるのは頑強な姿だけれど背は僕ぐらいの小さなおじさんだった。


「ドワーフ?」


「ああ、そうだ。彼がこの店の主だ。ガント、どうしたんだ?」


 僕の疑問に答えながら師匠が店主のガントさんに声をかけた。


「おお! ローンじゃないか。久しぶりだな。いや、この小僧っ子がワシにもっと見た目も派手な武器は無いのかなんてほざきよったからな! 叩き出したところだ」


「ケッ! 今に見てろよ! 高ランクハンターである俺様の依頼を蹴った事を後悔させてやるからなっ!!」


 叩き出された男性はそう言うとその場を去っていった。


「ふんっ! 口だけの小僧っ子が何を抜かすかっ!! で、ローンよ。お前さんは引退したと聞いてたが何の用だ?」


「ああ、とある事情で復帰したんだ。それで俺の武防具のメンテとこの子の武器や防具を選びに来たんだよ、ガント」


「ほう? お前さんが復帰するとはな…… さては女だな? 正直に白状したならお前さんのメンテもこの小僧の武器や防具もサービスしてやるぞ?」


 ガントさんの言葉に師匠は耳まで赤くしてたけど、


「弟子の前で話せるかっ!!」


 とガントさんに言ってた。


「ふむ、ならばそこの小僧よ。先ずは自分で自分に合うだろうと思う武器や防具を選んで来い。さあ、店に入れ。それ、こっからこっちが中古品だ。だが全ての武器や防具はワシが手ずから修繕してある。直ぐに壊れたりはしないからな」


 僕は言われた通りにガントさんのお店に入って中古品の中から僕が使えそうな武器や防具を選ぶことにしたんだ。そうしたら師匠もガントさんと遠慮なく話せるだろうからね。


 僕は先ずは武器を見ていく。ナイフ、短剣、片手剣、両手剣、槍、斧、棍棒、メイス、杖、などなどとても中古品とは思えないような状態の武器が並んでいる。

 値段もナイフなら銅貨十枚〜三十枚。短剣だと銅貨十五枚〜とお値打ち価格となっていた。


 そんな中、僕は何故か一振りの剣に目を奪われた。今までに見たことがない形をしたその剣は鞘から抜いてみると片刃だけど良く切れそうな刀身だった。長さも柄を含めて九十センチぐらいと僕でも振れそうな長さだ。値段は銅貨四十枚。


 僕はその剣を手にして次に防具を見る。師匠に言われた小型の盾は木製、革製、鉄製の三種類あって、しっくりきたのは革製の盾だった。軽さもあって取り扱いしやすそうだったんだ。値段は銅貨十三枚。


 胸当てを見てみる。やっぱり革製のが安くて軽くて良さそうだったから、銅貨二十枚のものを選ぶ。残り予算は銅貨二十七枚。それで買えそうなブーツを探すと、靴裏にスライムシー卜を貼って補強されたブーツが銅貨二十枚で売ってあったからそれを選んだ。


 僕はそれを持って二人の所に戻ったら、ガントさんがニヤニヤしながら師匠に何かを言っている。


「グフフフ、あの爆狩りローンが遂に女に惚れたか! しかも自分の弟子の義理の母親とはな。そりゃあ、気合もはいるわな。グフフフ」


 あっ、やっぱり師匠は義母さんが好きなんだね。フフフ、僕も応援しますよ師匠。


 そこで武器、防具を手にして戻ってきた僕を見て師匠は。


「おっ、選んだか。刀を選んだんだな。ガント、この刀は?」

 

「ローンよ、東から来たサムライがワシが打った刀を手にしてから置いていったものだ。丁寧に作られているし、そのサムライも手入れを怠ってなかったからワシは軽く研いだだけだ。しかしお主、刀を教えてやれるのか?」

 

 ガントさんの言葉に師匠は


「基本だけなら教えてやれる。そこからは本人が創意工夫しなければならないな。それでも良いかロウト?」


 と僕に確認してきたので、僕ははい、お願いしますと返事をしたんだ。だってもうこの刀っていう剣が手に馴染んでしまってるからね。今さら他の武器に変えるなんてできないよ。


「どれどれ、防具は、ほう、坊主。お主は自分の事がちゃんと分かっておるようじゃな。うん、この選択は良いとワシも思うぞ」


 ガントさんが僕の選んだ防具を見てそう言ってくれた。師匠も頷いてくれてる。


 お金を払う時にガントさんは、ご祝儀だと言って鎧下を三枚くれて、合計金額銅貨九十三枚のところを銅貨八十枚にしてくれたんだ。お釣りで銅貨二十枚もあるよ。


「よし、今日はこれまでだ。明日は、森方面に向かうぞ。と言っても森には入らずに手前の草原で狩りをしてみる。最初は俺が見本を見せるから良く見ておけ」


「はい、師匠。お願いします。それで、今日はどちらに泊まられるんですか?」


 僕は師匠は宿屋にでも泊まるんだろうと思ってそう聞いたら、師匠は笑いながら言った。


「心配するな、ちゃんと家を購入してある。方向はロウトが住んでる場所と同じだからさあ、帰ろう」


 さすが師匠だ。ちゃんと家を購入してるなんて。僕は師匠に頼んで帰りがけにある屋台で肉串(タレ)を六本、さっきのお釣りの銅貨二十枚で購入した。ホントは銅貨二十四枚なのに屋台のおじさんが二十枚にまけてくれたんだ。


 義母さんはこの肉串が大好きだから喜んでくれるはず。それに師匠に会えばビックリするぞ。


 僕はワクワクしながら師匠と一緒に家に向かって歩いていった。



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