第6話 千手如来の太極拳

神殿の外で、エルウィンが報告に戻ってきた。「大きな荷車隊が通り過ぎました。一人の軍官が二十人の兵士を率いていました。」そう言って彼は再び見張りに戻った。


マーカスは仲間たちと相談を始めた。「東へ向かうと、人里はまばらで、我々の行動には好都合だ。ただし、この官兵隊と彼らが護衛している謎の人物が何者か分からない。我々が兄弟を救出する際に、彼らが干渉する可能性は否めない。警戒が必要だ。」


皆がうなずく中、ウィルフリッド僧侶が口を開いた。「伝説の魔導士ザカリーの弟子、レオナルドの噂は広く知れ渡っている。彼がこの救出劇の主犯であるならば、この機会を逃さず対峙しよう。」


マーカスは頷き、「僧侶の七十二式『魂奪いの剣』は天下無双だ。今日、レオナルドを逃がさないようにしよう。」と応じた。


トーマスは、「もし師匠のザカリーが到着していたら、彼の弟子を目の前で殺すことには慎重になる必要があっただろうが、幸いにも彼はまだ来ていない。これで我々は自由に行動できる。」と付け加えた。


常に影のように動いていたケビン兄弟が、敵の詳細を報告した。「兄さんは敵の本拠地をしっかり調べてきた。明日の朝には、救出作戦を実行できるはずだ。」


マーカスは頷き、「よし、全員、敵の特徴を覚えておくんだ。戦いが始まったときに有利に働く。」


ケビン兄弟は、捕らわれている兄弟の状況を説明した。「彼は夜は看守と一緒に寝かされ、昼は大きな馬車に拘束されている。馬車は布で厳重に覆われ、中の様子は外からは分からない。二人の看守が馬に乗って常に側を護衛している。」


ウィルフリッド僧侶は尋ねた。「レオナルドはどんな風貌だ?」


ケビンは答えた。「四十代前半、屈強な体つきで、短い髭を蓄えている。」


ウィルフリッドは笑って、「久しぶりに相手に会えるのが楽しみだ。トーマス、お前の『千手如来の太極拳』も見せてくれないか?」


トーマスはにやりと笑って、「無念……」とだけ言い、黙った。


その夜、霧が立ち込める中、マーカスと仲間たちは敵の陣地に忍び込んだ。彼らは魔法の力を駆使して、看守たちを静かに片付けた。無言のうちに、彼らは目標の馬車にたどり着いた。


マーカスは手をかざし、魔法の光を放つと、馬車の布が静かに溶けるように消えた。中には兄弟が鎖で縛られていた。マーカスは兄弟の手を取ると、魔法の力で鎖を解き放った。


しかし、その瞬間、空気が急に冷たくなり、霧の中からレオナルドが現れた。彼は冷たい笑みを浮かべ、「お前たちが来るのを待っていた。」と言った。


ウィルフリッド僧侶は前に出て、「今日こそ決着をつけよう。」と剣を構えた。


レオナルドは魔法の杖を振り上げ、地面が揺れ動く。地面からは骸骨の兵士たちが現れ、マーカスたちに襲いかかる。


ウィルフリッド僧侶は叫び声を上げ、剣を振り回して骸骨兵士を次々と倒していく。トーマスもまた、その拳を振るって骸骨を粉々に砕いた。


レオナルドは魔法の力を集中し、巨大な火球を生成した。その火球はまるで生きているかのように動き、マーカスたちを狙って飛びかかってきた。


マーカスは急いで魔法の盾を展開し、火球を防いだ。しかし、その衝撃で後退し、息を切らした。


「これで終わりだ!」とレオナルドは叫び、さらに強力な呪文を唱え始めた。


だが、その時、兄弟の一人が突然立ち上がり、レオナルドに向かって飛びかかった。「これ以上、兄弟を苦しめることは許さない!」


その一撃はレオナルドの魔法を阻止し、彼は地面に倒れた。マーカスと仲間たちはすかさず彼を取り囲み、その魔法の力を封じ込めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る