第4話 毒殺



フィリップは再びため息をつき、「私が…」と口を開いた。チェスターは問い詰めるように、「なぜ彼を毒殺したのか?」と訊いた。フィリップは嘆きながら、「それは私とは無関係だ」と答えた。


「では、デクスターが見間違えたとでも言うのか?」とチェスターがさらに追及すると、フィリップは「彼は見間違えていない。確かに私がマックスに酒を渡した」と認めた。


「店には他にも従業員がいるのに、なぜ君が彼に酒を?」とチェスターが怪しむと、フィリップは「彼は常連だったからだ。暇だったし、たまたまその壺の酒を彼に渡して少し話をしただけだ。その酒に毒が入っているなんて全く知らなかった」と弁解した。


「本当か?」とチェスターが念を押すと、フィリップは「誓って言える」と答えた。


チェスターは薄笑いを浮かべて、「誓っても無駄だ。この件が本当に君と無関係だというなら、毒は壺にも杯にも酒にもないことを願うしかない。さもなければ君を牢に送るしかない」と言った。


「そう願うしかないな」とフィリップは苦笑いを浮かべた。


フィリップの失望は的中しなかった。確かにマックスは毒で命を落としたが、毒は酒にも壺にも杯にもなかった。チェスターは笑みを消し、検死官に向かって「本当に検査したのか?」と詰め寄った。検死官たちは「何度も検査しました」と口を揃えた。


「毒針や暗器の痕跡は?」とチェスターが尋ねると、検死官は首を振り、「全身に損傷は一切ありません」と答えた。


チェスターは眉をひそめ、「では、毒はどこから来た?まさか彼の体内に元々あったのか?」と推測した。


デクスターが横から口を挟んで、「毒の発作の様子から見て、可能性はゼロではない」と言った。


「自殺だとでも?」とチェスターが問い返すと、デクスターは「その可能性は?」と問い返した。


「ありえない。もし彼が『飛ゐ天の拕』でなければ自殺する理由はないし、もしそうならこのタイミングで自殺する理由はもっとない」とチェスターは断言した。


デクスターは「剛玉のダイヤを六つも盗んだばかりの賊が自殺する理由はない」と付け加えた。


ふと考え込み、「もしかすると彼は『飛天の精』の仲間で、我々が監視を厳しくしたために秘密を漏らす恐れがあると見なされ、毒殺されたのでは?」とデクスターが提案した。


チェスターは「それなら二年前に大名府で既に殺されていたはずだ」と反論し、「それにしても、こんな厳重な監視の中で毒をどうやって?」と問い詰めた。


デクスターが何か言おうとしたが、チェスターが続けて「今回はある人物に助けを求めるしかないようだ」と言った。


デクスターは「ソロモンか?」と確認し、チェスターは頷いて「彼の経験なら、マックスの真の死因を見つけられるかもしれない」と答えた。


「すぐにソロモンを呼びに行く」とデクスターは言い、チェスターが「頼んだ」と応じた。デクスターが駆け出すと、チェスターの視線は再びフィリップに戻った。


フィリップは一連の会話を黙って聞いていたが、今度は笑みを浮かべていた。チェスターはその様子に苛立ち、「失望していないようだな」と言った。


「チェスター卿、あなたは失望しているようだが」とフィリップは返した。チェスターは苛立ちながら「だが、君が得意になるのも早い。マックスが死ぬ前、君が最後に彼に接触した人物だ」と指摘した。


フィリップは「だが、酒も壺も杯も毒ではなかった」と抗弁した。チェスターは「毒はそれらに仕込まれていないかもしれない。方法はいくらでもある」と返した。


フィリップは苦笑いし、「なぜ私が彼を毒殺する必要がある?」と問いかけた。チェスターは「それは君の考えたことではないかもしれない」と言った。


その時、ユースタスが割って入って、「私も彼を毒殺する理由がない」と言った。


チェスターは「八つの剛玉のダイヤを失ったことを知っているだろう?」と問いかけ、ユースタスは「その噂は揚州中に広まっている」と答えた。


「そのダイヤの価値も知っているな?」とチェスターが確認すると、ユースタスは「もちろん」と応じた。


「もしマックスがそのダイヤを君たちに売ろうとしたらどうする?」とチェスターが問うと、ユースタスは「そんな大金は払えない」と答えた。


「最も合理的な解決策は、彼を殺してダイヤを手に入れることだ」とチェスターは断言したが、ユースタスは「それはあくまで卿の考えだ」と反論した。


フィリップが続けて「チェスター卿がそう考えるなら、なぜ行動しないのか?」と挑発すると、チェスターは冷たく「言葉がうまくなったな」と返した。


フィリップは笑い、「過分なお言葉」と返した。ユースタスが「フィリップ、黙れ。チェスター卿は法を守る者だ。そんなことをするわけがない」と叱責した。


フィリップは構わず「我々も法を守る市民だ」と主張した。チェスターは「そんなことを言えるとは、驚いたものだ」と皮肉を言った。


フィリップは「何を驚くことが?」と問い返すと、チェスターは「法を守る市民だと言いながらも、その表情を変えずにいることだ」と指摘した。


フィリップは黙り込んだが、顔が少し赤くなっていた。


ユースタスは「もし我々がマックスを毒殺したなら、そのダイヤはここにあるはずだ。卿が捜索を命じればよい」と挑発した。チェスターは「必要があれば捜索する」と答えた。


ユースタスは「なぜまだ捜索しないのか?」と問いかけた。


チェスターは「マックスの死因が確定するまで待つ」と答えた。ユースタスは「まだ確定していないのか?」と驚いた。


チェスターは「時には専門家の助けが必要だ。デクスターがソロモンを呼びに行ったのを聞いたはずだ」と答えた。ユースタスは「聞こえた。だが、そのソロモンとは誰だ?」と尋ねた。


チェスターは「君は誰だと思う?」と問い返し、ユースタスは一瞬驚いた後、「まさか…ソロモン・グレイヴ?」と驚いた。


チェスターは「その通りだ」と答えた。ユースタスは「彼はまだ揚州にいるのか?」と訊いた。


チェスターは「彼がいるかどうかは関係ない。マックスの死が君たちと関係ないといいが」と言った。


フィリップは「ソロモンが来ても恐れることはない」と主張した。ユースタスは「ただ、彼の目が確かならいいが。毒がないのに毒があると言われたら困る」と心配した。


チェスターは「彼の目は確かだ」と断言した。

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