呪われた村/呪いの迷宮/ヤーデ村



ブライで走り続けて数時間が過ぎた。

何処か見知った風景になり、ブライから降りて歩き回る。


何処かで見た大木。

見知った三叉路。壊れかけた柵もその奥の農場も。

村に近い光景だと、思い出す。


荒れた道の先。

その場所に手を伸ばす。すっと呪いの膜を感じた。

ブライが唸る。

今までのように心配して鳴くのではなく、何かをけん制して鳴くかのように。


「大丈夫だ。行ってくるよ」

ぶぶっと鳴いたブライが、俺をじっと見ている。

それに肯いてから、封印の中に入った。



酷い事になっているだろう。

それは覚悟して入った。

けれどどこかで、誰か生きているのではとも思っていたのだ。


村の中は荒れ果てて、何処も彼処も壊れていた。

それが時間の経過で壊れた物ではなく、随分と昔に壊された物だと分かったのは、壊れた物に草が生え木が根付き、石が苔むしているからだ。


そして石像がある場所には、沢山の人骨が転がっていた。

そこは、皆が集まる交易の広場の場所で。

確かに女神像が立っていた記憶がある。

花壇が周りを囲んでいて、皆が手入れをしていた。そんなに毎日手入れをしては余計に形が分からなくなるのではと心配していたが、汚い方が嫌だと村人が順繰りに汚れを落としていた。


いまは、石像は倒れ、地下への穴が見えている。

そしてその穴にも、周りにも、骨がたくさん集まっていた。


村人全員で、この呪いをどうにかしようとしたのだろう。

誰一人助からずに、死んだのだ。


そうでなければ、こんな数にはならない。

溜め息すら出ない。

呻かないように、口をぎゅっと引き結ぶ。


移動させるために骨を持ち上げると、バラバラになった。

衣服が無くならずに残っているのは、仕様なのか魔王の嫌がらせか。

見ただけで、何処のだれかと分かるように。


地下への入り口には這い上がって登って来るような骨がたくさん詰まっていた。その中に見慣れてしまった板が落ちている。


骨を拾い、外へ出し、板を拾う。

何も考えないようにと念じながら、それを続けた。


あまりにも人数が多くて、夜になってしまった。

俺は探索を諦めて、広場の端に座る。

倒れた石像の周りに、沢山の骨。それを悲しいとはもう思えなくなっていた。


魔王を憎んでも良いだろうか。

それとも駄目だろうか。

自分の心だけを追っていくならば、恨みも怒りもあって。

その心だけで良いならば、俺は魔王を黒い感情で潰すだろう。


けれど。

目を閉じて、勇者ロウチの事を考える。

あの人達が、俺を投げた時に何を言ったのか。

口々に何かを言っていた。その顔は皆、泣き笑いだった。


言われた様な、酷い話では無くて。

きっと理由があったのだ。だから俺は怒りと恨みだけで魔王を討つことが出来ない。

あの人達がいるから。

俺は勇者であることを止めない。


空にはまだ星明りがあって、魔物は復活しない。

火を起こしてその傍に座り、嫌な事を思い返さないように。

そう願って目を閉じた。



火の傍で、ウトウトしていると、誰かの気配がした。

懐かしい優しい気配。

それが俺の周りに集まっている。

まるで何かから守るように。何を言うでもなく周りに立ったまま、そうやって俺の傍に居る。

待たせてすまない。

半分眠りながら、そう思った。

けれど誰もが何も言わずに、そのままそこにいる。


夜明けに目を開けてみると、もちろん誰もいなくて。

それでも俺の心は随分落ち着いていた。


日が昇る頃に、また骨をどかして階段を降りる作業をする。昼頃にはすべてどかしきって板も集まっていた。

しっかりと9枚揃っている。

最後の一人は扉の前で倒れていた。


扉を開けて、中に入る。

書見台に板を入れて、いびつな形を作る。

部屋が薄暗くなり、ボスが出て来る。

片手を振って、その姿を確認もせずに消し去った。


これ以上、自分が怒らないように。

青い光が呪いを消し去って、村が封印から解かれる。


呪いが無くなっても、積み重なった骨は消えることもなく。

壊れた村が戻る事もなく。

綺麗な空と大気になったとしても、この村が変わることはない。



外で待っていたブライに近寄り、首を撫でる。

次の場所を確認しようと地図を見ると、書かれていた四角い印がうっすらと消えかかっていた。指で触っても擦れて消えることはなかったのに?


代わりに台地に印が浮かんでいる。

これは、始原の聖堂の場所では。


俺は見える台地を見上げる。そこにあるはずの聖堂は見えない。

描かれた印が変わることがあるとは思っていなかったが、俺は新たな印を目指そうと思う。四か所の封印を解いた事で、何か事象が変わったかもしれないから。


台地に登るなら、近くの馬宿屋にブライを預けよう。

そう思って、昨日泊まった馬宿屋をもう一度目指した。


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