魔法研究所の双子



俺が印を見上げていると、塔の入り口のドアがバンッと勢いよく開いた。


そして全く同じ顔をした二人の人物が、ガバッと抱きついて来た。

「ディザイア!生きていたんだね!!」

声が大きくて、しかも両方向から聞こえて、返事がしにくい。


「どうしたんだ?どこか具合でも悪いのか?」

「ディザイア?疲れているのか?」

「…いっぺんに話さないでくれ。答えにくい」

俺が言うと二人ともぱっと離れて、驚いたような顔で見つめられた。


「え、ディザイアが僕達にきちんと答えている?」

「ディザイアが僕達を嫌がらないなんて、どうしよう?」

どういう関係性だったのか、質問したい。


「何かあったんだな、中に入って」

「ほら、早く入って」

手を引かれて塔に入った俺は、二人に本と書類で埋もれているテーブルの席に座らされて、手で隙間を作った所に置かれたカップから、お茶を飲んでいる。


二人はそんな俺の前に手を繋いで座って、俺を見上げている。

白い髪は腰まで長く、頭には左右対称にリボンを結んでいて。大きな眼は赤が強い茶色をしていて、肌は綺麗だし、お揃いのワンピースとブーツは良く似合っているけれど。


「ディザイアは何処にいたんだい?」

「どうして歳を取っていないんだ?」

話し方が少し違うと言うか。

「…説明する」


俺の話は簡単にしか話せない。さした事実がないからだ。

けれど二人は酷く憤慨して。


「あのくそ勇者はそんな事をしたのか」

「エンハイム兄さん、あいつらはやっぱり僕達が絞めておくべきだったよ」

「そうだなローハイム。そうしておくべきだった」

名前も違うというか。兄さんて言っちゃってるし。


「それよりも、話したい事がある」

俺は、ペーシュさまが生きて魔王を押さえている事。今の俺には記憶がなくて力が戻っていない事。それから封印地域を開放したい事を話した。


「待って。僕には情報が多くて。ゆっくりお願いしたい」

「ディザイアの記憶がないって本当?」

「ないというか思い出せない事が多いと言うか。きっかけがあれば出て来るのなら、無くしたと言うよりは忘れているのだろうが」

うんうんと二人に肯かれる。


エンハイムの方が指を二本立てる。

「次に、ペーシュさまが生きているのは本当かい?」

「本当だ。俺が魔法で確認している。魔王を押さえていると言われた」

「そうなのか。…あの小さな姫が」

感慨深そうにうなずくエンハイム。


ローハイムが三本指を立てる。

「最後に、封印地域を開放したいっていうのは?」

「俺が魔王を倒すには必要だとワーシャに言われた。それで此処に来たんだ」

「僕達の力が役に立つかもという訳だね?」

頷きながらローハイムが笑った。

二人で立ち上がって、俺に微笑む。


「まかせろ、ディザイア。君のためなら何でもする」

「まかせな、ディザイア。僕らなら役に立つよ」

だから、言葉が男らしいと言うか。姿と言葉の違いが酷い気がする。

見る限り美少女の双子なのに。




「さて、早急に必要なのはディザイアの魔法かな?」

エンハイムが本を開きながら聞いてくる。

「…そうかもしれないな。今の俺は媒体なしに魔法を使ったことが無い」

「君が媒体を使う必要はないと思うのだが」

眉を顰めてエンハイムが言う。


「俺に魔法が使えると言う実感がない」

「そこからか。修行をしている時間は無いだろうし、どうしようか」

「うん。ディザイアに使ってもらえる魔導具というと少ないと思うけど」

二人して棚を探しながら、話している。

俺はそのいじっている棚の荷物が崩れそうな方が気になって仕方ない。


どうしてそんなに詰め込んでいるのか。その棚の許容量ではない気がするのだが。

「これなら、ディザイアの魔力に耐えられると思うけど」

ローハイムが何やら手に取った。それをエンハイムも見ている。


「ふむ。これか。あまり可愛くないのだが、仕方ないか」

「そこは妥協しよう兄さん。今から作るのも大変だし」

「大変という項目で、妥協するのは」

「分かるよ兄さん。これで試して貰って良かったら新デザインの物をあげればいいと思う」

「そうか、熊にするか」

「違うよ、猫がいいよ」

何故か対立しだしたので、口を挟む事にする。


「それは媒体なのか?」

俺を振り返って、ローハイムが持って来る。

「うん。僕が作った中では一番耐性が強い物だけど、君が使うとなると壊れない保証が出来ないかも」

渡されたのは、右手を包む手甲の様なものだった。


「嵌めてみてくれる?」

「ああ」

手を入れると腕をはめるというよりも腕そのもののように形が変わった。自分の腕に何かの部品がはまって構築された様な。

薄く魔法の光が腕全体を包み込んでいる。


それが収まった時に自分の身体の中の魔力を感じ取れた。

やっと自分が魔法を使えると信じられる。


「上手くいったかな?」

聞いてくるローハイムに頷く。

「魔法が使える気がする」

「それは良かった。だがどんな魔法があるかとかは分かるか?」

エンハイムに問われて、考えてみる。


考えてみたが、思い浮かぶものはない。

首を横に降ると、エンハイムが肯いた。

「それならば、汎用性の高い魔法をその腕に刻んでおこう。それなら考えずに使えるだろう」

エンハイムが宝石を持ってきて手の上側にはめ込んで行く。

はめ込まれるたびに、魔法が判明して俺の眼の前で、文字が躍る。


俺の眼の動きを見て、エンハイムが笑う。

「見えて分かっているかも知れないが、確認のために説明をしよう」

ローハイムも興味深そうに傍に寄って来た。


「小指の物がトロット。決めた場所へ何時でも飛べる魔法だ。飛ぶためにはあらかじめ要石が必要だ」

「要石?」

俺が聞くと、肯いて小さな紫色の石を見せてくれた。


「これが要石だ。これを地面に刺し込むと円形の足場が出来る。そこへなら何時でも飛べる。要石は設置したら永続的に使える。壊されれば別だが」

じゃらっと要石を渡される。

「ここから離れる時は玄関前に一つ設置していくといい。薬指の物は炎属性の火輪だ。中指の物が氷属性の氷壁で、人差し指の物が風属性の疾風と、親指の物が雷属性の雷雨。水も含んでいる。あとは」


エンハイムが大きめの宝石を手の甲に嵌めた。

「これが、無属性の翼という魔法だ」

「…飛べるのか」

「どちらかと言えば滑空に近いかも知れない。しかし魔力を注げばある程度は高くなる。物理的に飛ぶなら、人差し指の疾風を使えば良い。それは上にも下にも風を作れるから」


ローハイムがほうっと溜め息を吐いた。

「やっぱり兄さんの技術はすごいな」

「ローハイムの手甲がなければ何も作用しない。二人合わせての作品だよ」

二人が揃って俺を見る。


「ディザイア。ここで試していくといい。魔法の調子が悪いならすぐ治せるからな」

「僕達をきちんと使ってね」

「…感謝する」

そう伝えると二人の顔が真っ赤になった。

「昔のディザイアも良かったが、今のディザイアもいいな」

「僕もどっちもいいよ。ディザイアはやっぱりいいなあ」

どういう喜ばれようなのか分からない。どんな奴だったんだ昔の俺。




塔のてっぺんまで登って、そこから飛び降りる時に魔法を発動した。背中に大きな鳥の翼が出現した。俺の身体から生えているわけでは無いが、密着してはいるようだ。

ただし、殆んど羽ばたかない。

だから滑空というのは正しいのだろう。


それでも飛んでいる事は間違いなく。

自由に出したり仕舞ったりできる羽は、便利でしかない。

ゆっくり旋回しながら地上に降りた。感覚的にも違和感はない。


魔法の試しの発動をただやるのも嫌だったので、ハジ海岸に行って色違いトカゲを魔法で倒した。水辺にいる魔物は炎よりも氷が効いた。

やはり実戦に限る。


魔力が尽きないので思い切り発動して、海岸を一掃してみたが、使ってみないと分からない属性の癖みたいな物があり、思い切り確かめさせて貰った。

次の“呪い満ちる夜”までは魔物はうろつかない。


色々試して魔法は大体わかったので次の問題を考える。

武器の不足だ。

拾った武器ばかりで戦うなら、強い魔物と戦って武器を蓄えるとかをしなければならないかも知れない。


「こんな事を聞くのは専門違いかもしれないが。武器は拾う以外に入手方法はあるのか?」

夕飯時に二人に聞いたら二人して俺を見て一言。

「え?」

と、声をそろえて言われた。


「何を言っているのかディザイアは?」

「君がそんな事を言うなんてディザイア」

なんだか、非難されている気がするのだが。

エンハイムが溜め息と共に、俺に告げた。

「君には聖剣があっただろう?」



「………は?」




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