9_20170621執筆分

花畑の中を歩き続けていると、街灯が見え始めた。

街が近くにあるようだ。

宿もあるかもしれない。

僕は懐を確かめた。財布がある。いくら入っているのだろう。

もはや言及するまでもないが、勿論、これも覚えていない。

財布の中身を確かめる。

「お金、ある?」

理香が、僕の意図を全て了解している様子で僕に尋ねる。

聡(さと)い子だ。

財布を再び懐にしまいながら僕は答える。

「あるよ。一晩泊まるぐらいなら、十分にね」

そのまま街に近付いてみると、僕はその様子に面食らった。

西欧風の建物が並んでいる。ここは日本では無いのか?

いつ僕は外国へ来てしまったんだ?

相変わらず街路にも桜が植えられている。絶妙にミスマッチだ。

だが、こうして眺めていると、奇妙な均整がとられているようにも見えるから不思議だ。

「きれいなところだね」

理香が目を輝かせる。

「お人形さんのおうちみたい」

理香が突然走り出したので、僕は慌てて追いかける。

「危ないよ」

「大丈夫だよ。だって、誰もいないもん」

言われてみれば、確かにそうだ。

まだ夕方だというのに、全く人影が無い。

外出禁止令でも出されているのか?あるいは、無人の街か?

とにかく、宿らしきものがあるかどうか、まず探してみなくてはならない。

「ねえ、ホテルがあるよ」

理香が指を差して示している、その先を追ってみると、

確かに「HOTEL」と書かれた建物があった。

「よく読めるね」

「このぐらい、読めるよ」

「開いてるかな」

僕は、その建物の、いやに頑丈そうなドアを右手で押す。

ギギギ、と音を立てながら、ドアはゆっくりと開いた。

「まるでいかめしい洋館みたいなドアだな」

僕は思わず一人ごちた。

「ねえ、すごいよ!」

理香が感嘆の声を上げる。

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