8_20170620執筆分
僕は何気なく聞いている風を装いながら、
彼女の言う友達というのが、彼女の妹ではないかという
僕の直感が誤っていたという事実に、少しばかり落胆した。
そもそも彼女に妹なぞいただろうか。それすら怪しく思えてくる。
もしかすると、妹ではなく弟だったか?だとしたら、そのなおちゃんという子は
彼女の弟だろうか?
混乱する頭を何とか整理しようとしてみるが、どうにも上手くいかない。
何もかもが、判然としない――。
まるで夢の中にいるような……。
――夢?
そうか、夢かもしれない。しかし……。
「何考えてるの?」
気付いたら、理香が僕の顔を覗きこんでいた。
「何でも無いよ、ごめん。
行こう」
僕は再び理香の手をとって、歩き始めた。
これが夢だったとしたら、僕の探している彼女は、僕にとって何なのだ。
リアリティーを持たない、遠い日の憧憬に過ぎないのか。
遠い日の憧憬?何を言いたいのか、自分でも良く分からないが、つまり……。
僕の脳裏に強く刻まれた想い出から生まれた夢なのではないかということを危惧しているのだ。
つまり、彼女は現実には、もうすでに僕の傍にはいない。
生きて別れているのか、悪くすれば、死別して……、いや、そんなことは考えまい。考えたくない。
「おじさん、お顔が変」
ハッとする。理香にそう指摘された僕は、慌てて微笑を浮かべた。
「ごめんね、ちょっと考え事。それにしても、おじさんはひどいな。
僕は――」
まただ。今度は自分の年齢が定かでないことに思い至った。
結局僕は、自分のことなど何も分かっちゃいないのだ。
「まだお兄さんだよ。多分」
「おじさんだよー」
理香は、けらけらと笑った。
ずっと仏頂面だったこの子がやっと笑ってくれたので、僕は何だかほっとして、
胸が軽くなった。
「行こうか。もうすぐ暗くなるから、それまでに少しでも
なおちゃんの近くに行こう」
うん、と理香は元気よく頷いた。
そう、もうすぐ夜が来る。どこで休んだものか。
どこか落ち着ける場所が見つかればいいが。
尚人という子は、どうしているのだろう。一人でいるのだろうか。
一人で夜を過ごすのか。
早く見つけてあげなくてはいけない。僕はひとまず、彼女を探すという自分の目的は据え置くことにした。
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