6_20170615執筆分
小さな細い手。
僕の探している彼女も、小さい頃、こんな手をしていたことを思い出す。
その手をよくとって、こうして一緒に歩いたものだ……。
「君の名前は?」
思い出したかのように、僕はたずねた。
女の子は、不思議そうな表情を浮かべて、名前を言った。
「理香」
「理香ちゃん。いい名前だね」
ぷい、と女の子――理香は僕から顔をそらす。
何かご機嫌を損ねた様子である。
「理香ちゃんの探している友達は何ていう名前なの?」
「どうだっていいでしょ、そんなの!」
理香ちゃんは、怒りに顔を紅潮させながら叫んだ。
突然のことに、僕は怯んだ。
「あなたは、探している彼女の名前だって覚えてないくせに!」
意外な糾弾。そんなはずは無い、と一瞬思い、弁解しようとした。
だが、よく考えてみると、奇妙なことに、理香の言う通りなのだ。
僕は、僕にとって大事な存在であるはずの、彼女の名前を覚えていない。
考えてみれば、容姿すら定かではない……。最後に会ったのはいつだったかも。
一体僕はどうしてしまったというのだろう。
理香は、それきり僕の顔を見ようとはしない。
だが、繋いだ手を離さないでいてくれることに、僕は救いを感じた。
完全に信頼を失ったわけではなさそうだ。
少なくとも、当面、僕のことを必要とは思ってくれているようだ。
理香の友達を探すために。
その子は、何という名前なのだろう。
そして僕は――、これもたった今気付いたことだが――、
僕の名前は何というのだろう。
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