第4話 召喚士、異世界の家屋にお邪魔する

 僕はいつもこうだ。好奇心に身を任せて後のことを考えない。それで何度か失敗してきているはずなのに学ばないなんて、シーグルさんの言う通り僕はまだ子どもだな。


 ざりざりと足を引きづるように歩みを進める。


「あの、本当にいいんですか?」


「いいですよ、男に二言はありません」


 彼はあの後、僕のことを本当の迷子だと悟ったのか家まで来ないかと言ってきたのだ。涙目になりながら僕はすぐに頷き、今に至る。


 本当に行っていいのかと確認しながら後ろをついていく。正直、まわりの景色が気になるけど、今は気分でない。なにより彼に申し訳が立たない。


 これが異世界人の本当の優しさなのだとしみじみ感じる。最も、仕事柄ひどい性格の人たちばかり見てきたからな。


「着きましたよ」


 顔を見上げると、そこにはこの世界で言う家屋があった。部屋に続くであろう扉がいくつもある。しかし、彼は着いたと言っていたが、外階段を上っていった。そこが彼の寝室なのだろう。


「狭くて申し訳ないです。さ、上がっていってください」


「はい、おじゃまします」


 異世界人の暮らしが見れる期待で心躍っていたが、すぐに気持ちは落ち着いた。

 扉から入ってすぐにキッチンがあり、迎えには浴室とトイレ。進んだ先には寝室と思われる部屋が一つだけ。


 まるで、宿屋に来たみたいだ。


「うわ」


 彼の手元からパチンという音が鳴り、寝室が一気に明るくなった。思わず情けない声を出してしまったけど気にしない。魔法でも使ったのか気になるばかりだ。


「あ、ごめんなさい。急に明るくなったからびっくりしましたよね」


「あなたは、魔法が使えるのですか?」


「魔法……? これは電気を点けただけですよ。ここのスイッチで」


 そう言いながら彼は壁から手を離すと、言った通りスイッチが現れた。そのスイッチをいじれば電気が勝手に点くと言うのか……。


 で、そのスイッチにはどういった魔法がかけられているのか。

 なんて、聞いたところで困らせてしまうだけだろう。


 さっき魔法と言っただけで少し顔が引きつったように見えた。やはり、この世界では魔法は使われていない。自動で開く扉も、目の前に人が現れた時にセンサーが引っ掛かれば開く仕組みなのだろう。なんとも古典的というか。


 けれど、明るくなった部屋を見渡してみると見知らぬ機械がちらほら。ベッドとは反対のところにある薄くて四角いもの、そして先ほど彼がテーブルの上に置いていった小さくて四角いもの。テーブルの上に置いてあるものに関しては勝手に光ったりもしている。


 何か文字列が出ているようにも見える。気になって身を乗り出してしまったところで彼が戻ってきた。


「っと、もしかして見えちゃいました?」


「い、いえ!」


 文字が読めないとはいえ悪いことをしたようだ。大袈裟に首と手を横に振りながら返したが、彼の顔は相変わらず柔和であった。


「ところで、どこから来たんですか?」


 どこから、か。正直に言うべきかどうか、困ったものだ。僕的には正直に言っていいとは思っている。だが、これ以上彼を困らせては申し訳ない。


 とはいえ、どのように誤魔化せばよいのか。そう悩んでいる間に彼はまた口を開いた。


「まあ、答えにくいですよね。とりあえず、今日は家で休んでください」


「あ、あの!」


 僕はつい声を荒らげてしまった。だって、彼が少し寂しそうな顔をしたから。

 仕事をしていたとき、異世界人のことで一つ気になっていたことがある。


 ――それは、転移してきた者の口から親族や友人のことを口にしているところを見たことがない、ということ。


 だいたいは自分のことしか考えていない、そう思い込んでいただけなのかもしれない。もしかしたら彼らは、自分のことしか考えられないのではなく、考えることが自分のことだけなのかもしれない。もしかしたら、僕と同じで独りなのではないのか、と。


「……僕は、異世界から来ました」


 立ち上がりかけていた彼の顔をまっすぐ見つめる。呆気にとられているようで、その場に留まっているようだ。無理もない、異世界から来たなんてこの世界の住人からしたらあり得ない話なのだろうから。


 それでも、僕は彼には嘘をつきたくなかった。


「……ぷっ」


「あ、あの……」


「あはははは!」


 笑われた。それも柔和な彼がしなさそうなくしゃくしゃな顔で。


「あー、ごめんなさい。面白いこと言いますね」


「ほ、本当なんですけど……」


「大丈夫ですよ、疑っていません。もしかしてさっき暗い顔してたのって帰れないかもしれないと思っていたからですか?」


「そう、です。お恥ずかしながら……」


 だんだん恥ずかしくなってきた。誤魔化すように頭の後ろに手を当て、目を泳がすことしか出来ない。

 しかも、彼は本当に疑っていないようなのだ。真剣な目で僕を見てくる 


 もうここまで来たら、とことん正直になってやろう。


「あ、あの、一つお願いしたいことがあるのですが」


「ん。叶えられる範囲なら、どうぞ」


「ぼ、僕にこの世界のことを教えてください!」


「いいですよ」


 先ほどまでの動揺とは裏腹に明るい笑顔で、しかも即答だった。むしろ僕の方が呆気にとられてしまうほどに。





 ――――――――――――――――――――――


 ○後書き


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