07 少女ニュートンと嵐の予感
物理学者を
「先生は『ハーフ』の方なんですかー?」
「母がアメリカ人なのです。父は日本人で、ここ
「ふえーっ、なんという、やさしい方なのでしょう……」
美咲穂は目をうるうるさせた。
「美咲穂ちゃん、あなた、さりげなく『泣き落とし』をもくろんでいるでしょう?」
「ぎくうっ!」
「聞こえてますよ、『心の声』が」
「わっ、わたしは純粋な心から、先生のおばあさまが心配で……」
「はいはい、もうけっこうです」
「ふぇふぇー」
ずるがしこいがすぐ
「大学ってもしかして、トーキョー大学ですかー?」
「はい」
「ぶふうっ!?」
「ブタですか、あなたは」
「げほっ、げほ! 東大って、大学でいちばん、難しいんじゃないですかー?」
「日本では、そうですね。祖母の
「はっ、はあばあどっ!?」
「さっきから何を苦しそうにしているのですか?」
「だ、だって、まるでマンガみたいな肩書きなので……」
「ライオンが群れの中で最強を目指すのと同じ理屈ですよ」
「ふえー」
美咲穂はさりげなく
こんなふうにペチャクチャしゃべっていると、向こうから美咲穂の母・
「先生、紅茶がぬるくなったでしょう? 新しいのを持ってきました」
「おかあさま、お体に
「いえいえ、娘の家庭教師をしてくださるという方を、ぞんざいにはできませんよ。ほほ」
「……」
この子にして、この母あり――
美咲子は美咲穂をフォローして、理砂に対してこのように、よく接しているのだ。
美咲穂当人は気づいていないが、大人の事情を理砂はくみ取った。
「ママー、先生のお話はとっても面白いんだよー」
「まあまあ、さすが
「……」
しっかり聴いていやがる……
いや、まさかこのリビングには、盗聴器でもしかけられているのか?
理砂は少し、
「さ、さ。どうぞ先生、遠慮なく。わたしは
「いえ、おかあさま、おかまいなく……」
美咲子はクモが逃げるように、すたこらさっさとリビングから消え去った。
なるほど、『書斎』に受信機があるのか……
理砂はこの母親に
きっと、娘のことが心配でならないのだろう――
理砂はその
「そういえば先生は――」
ガシャン!
「――っ!?」
美咲穂がまた話を切り出そうとしたとき、リビングの奥のほうから
「ふえ、何の音かなー?」
「おかあさま――!」
理砂は
音のしたほうへ走ると、奥の部屋のドアが開いている。
「おかあさま、大丈夫ですか!?」
「ぐ、うう……」
「ふえーっ、ママー! どうしたの!? どこか悪いのー!?」
「おかあさま、しっかり!」
美咲子はおなかを
「これは、
「きたって先生、どういう――」
「美咲穂ちゃん、すぐに救急車を呼んでください! この家の中にタライやオケはありますか!?」
「そ、それなら、お風呂場に……」
「わたしがお湯を
「ふぇ、はいっ!」
こうして二人はあわただしく行動を起こしたのだった。
美咲穂は119番に電話をかけたあと、ふと不思議に思った。
お湯なんて沸かして、どうするのかなー?
このようにして
そしてこれはすなわち、新しい『命』の誕生への、大いなる予感だったのだ。
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