04 少女ニュートン、王者のカリスマを見せる

 自己紹介じこしょうかいのあとは、長谷部はせべ先生の手引てびきで、校舎こうしゃの中を案内されることになった。


 クラスの面々めんめんはわいわいがやがやと、気の合いそうな仲間を見つけては、会話を楽しみながら、あちこちを見てまわった。


 われらが主人公しゅじんこう葛崎美咲穂かつらざき みさほ修善寺可南しゅぜんじ かな、そしてやはり科学好きで一致いっちしていた天川星彦あまかわ ほしひこ比留間真昼ひるま まひるは、引力の作用のように接触して、ひとつのグループを作っていた。


「『カツラザキ』というのは、めずらしい名字みょうじですが、ひょっとしてミサホちゃんは、葛崎征志郎かつらざき せいしろうさんと、なにか関係があるのですか?」


 真昼の口から唐突とうとつに父親の名前を出され、美咲穂はびっくりした。


「ふえっ!? 葛崎征志郎は、わたしのパパだわよー。マヒルちゃんはどうして、パパのことを知っているのー?」


「わたしの家が空手からて一門いちもんを運営しているのですが、分野は違えどすぐれた柔道家じゅうどうかとして、葛崎征志郎さんのことは聞きおよんでいるのです。嵐静館柔道らんせいかんじゅうどう万鳥羽支部長まんとばしぶちょうでいらっしゃるのでしょう?」


「ふえっ、そんなことまで!? いったいマヒルちゃんは、何者なのー?」


 そこに星彦がフォローを入れた。


「もしかして、極龍空手きょくりゅうからてと関係があるのかな? 空手道からてどう極龍会きょくりゅうかい開祖かいそ比留間今朝雄ひるま けさおさんで、そのご子息しそくげん総帥そうすい比留間正午ひるま しょうごさんだったよね?」


「ふひっ!? ホシヒコくん、よくごぞんじですね。あなたも武術ぶじゅつ心得こころえがあるのですか?」


「いやー、まさか。ただ、スポーツを見るのが好きで、雑誌なんかでよく、『比留間』の名前は目にするからさ」


「ふひひ、極龍きょくりゅうをそのへんのスポーツ空手といっしょにされては困ります。われわれはつねに、実戦じっせんでのいを想定そうていしているのであって……」


 きなくさい雰囲気ふんいきに、可南はあせをかいた。


「ふしゅる。なんだか、あぶない話になってきたわねー。でもみんな、すごいわー。わたしなんて格闘技かくとうぎとは、なんのえんもないわよー」


「カナちゃん、極龍は『格闘技』などではないのです。じいさまが先の大戦たいせんにおいて完成させた、見敵必殺けんてきひっさつ実戦空手じっせんからてもとに……」


「きしゃあーっ!」


 いきなりえた美咲穂に、三人はおどろいて目を向けた。


 真昼はこのとき、彼女に獰猛どうもう野獣やじゅう蛮性ばんせいったのである。


「なしよっ!」


 ズシャオラアッ!


 三人はお笑い芸人のようにずっこけた。


「な、なんですか、それは、美咲穂ちゃん……?」


「ふぇふぇーっ、きんちゃんのギャグだわよー。マヒルちゃん、知らないのー?」


萩本はぎもとさんは知っていますが、いまの会話となんの関係が……?」


「わたしが言いたいのは、科学好きがガンクビそろえて、科学の話をしないなんてヘンテコじゃん、ということだわよー」


「――!」


 三人の頭を閃光せんこうつらぬいた。


―― た、たしかに……そういえば……! ――


 美咲穂はほこった顔をしている。


「ね、そうでしょう? さ、科学のお話をしましょう!」


「あはは、そうだよね、そうしようか」


「ふしゅしゅ、そんなことに気づかないなんてねー」


「ふひい、わたしとしたことが、迂闊うかつがすぎました……」


 三名はいちばん重要なことを思い出した。


 これもひとえに、われらが主人公のリーダーシップのせるワザだ。


 おのおのがこのとき、目の前の少女・葛崎美咲穂に、王者おうじゃの持つカリスマを見たのである。


「そうねえ、それじゃあまず――」


「みんなーっ、今日はここまでよー!」


 ズシャオラアッ!


 長谷部先生のつる一声ひとこえに、今度は全員がずっこけた。


「さあみんな、教室に戻って、帰る準備よーっ!」


「はーい、先生ーっ!」


 こうして科学の子たちのファースト・コンタクトは、不発ふはつに終わったのである。


「ふえー……」


 しかしこのとき、少女ニュートンは考えていた。


 彼女の頭の中には、やがて来るかがやかしい未来への、おそるべき青写真あおじゃしんが、すでにあったのである。

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