婚活のススメその①、好みを見つける

「す、すまない。取り乱した」

「いや、大丈夫だが...そっちこそ大丈夫か? あんなに驚いた声を出して、喉を傷めたりしていないか?」

「大丈夫だよ、ありがとう」

「うむ。こちらも大丈夫だ」

「そうか? ならいいが」


いきなり大きな声を出して絶望したような表情を浮かべたノーダックとハルジオ、その姿に驚いて何があった、どうした、落ち着けと言いながらも俺も含めてその場の全員が動揺し...じっくり数分掛けてわちゃわちゃとしてから落ち着きを取り戻して全員が席に着き直し、果実水を三本ほど空にしてから話の続きへと戻った。


何をそんなに動揺したのか飲みながら聞いたが、二人揃って何でもない、ディーの知るべきことではない、という返答だけだったので、気にすることは止めて話に戻ることにする。


「……それで、俺は何から始めればいいと思う?」

「うん、そうだねぇ...何から始めるべきか」

「うむ……では、まず好みを見つける所からじゃないか?」

「ん? どういうことだ?」

「ハルジオは分からぬが、少なくとも俺はディレウスの女の好みに関しては何も知らぬからな。女を紹介しようにもどんな女を紹介すればいいのかが判断出来ん」

「…………好み?」

「うむ、好みだ」


…………女の好み? ………何だろうか?


「………分からんのか?」

「……あぁ。好みと言ってもどんな感じで考えればいいか分からん」

「うぬぅ...あぁ、そうだ。あまり褒められたことではなかったが、ディレウスはあの旅の最中に何度か娼館に行って娼婦を抱いていたことがあるだろう?」

「ある、な。あぁ、あるな」

「その時の相手はどのように決めていた? そこから女の好みが判断できると思うんだが」

「…………??」

「ディレウス?」


どうやって選んでいたか...大体は娼館のオーナーが此奴を抱けって言って渡してきた女を抱いてたな。それ以外だと...トラウマ持ちの克服とか死に際の最後の思い出ぐらいだったか…………あれ? 俺が選んで抱いた記憶が無いな?


「あー、ディー?」

「………なんだ?」

「当時は聞いてなかったんだけどさ、もしかして娼館に行くようになったのって性欲を発散する以外の目的でもあった?」

「あぁ、あったぞ。娼館のオーナーから穢れた仕事だというイメージを払拭したいから勇者一行という肩書だけで声を掛けられて、それを依頼という形に残して請け負ったから行くようになったな。まぁそれも数回程度でそれ以降は戦いの後の火照りを発散するために行っていたからあの時言った性欲発散というのも間違いではないがな」

「あぁ、うん、もう大丈夫...(……だからあんなに娼婦たちに人気なのか)」

「うぬぅ...(………あの気難しい女がお気に入りだと公言しているのはこれが原因か)」

「??」


何かあったか?


「んー、あー、んーー」

「………では、ディレウスからして好ましいと思った女性はいるか?」

「あー、そうだな...難しいが、レミィやステラのことは好ましいとは思っているな。可憐だと思っているし、綺麗だとは思っているぞ」

「ほう、そうか! (………これは、どっちだ?)」

「………(……多分、これ、個人の嗜好じゃないな)」

「…………?」


「よし」

「……どうした?」

「ディーの女性の好みを考えてみよっか」

「女性の好みを考える?」

「うん。ほら胸が大きな女性が好きとか、気の強い女性が好きとか、そんな感じの色々と考えられることはあるからさ。見つけるっていうよりもこうした部分から考えていけば近道になると思うんだよね」

「ふむ、確かにそうか。無理して個人を思い出して考えるよりも、見た目やら性格やらの好みで考えることが一番の近道か」

「………ふむ」


見た目やら性格やらの好みか...いまいちそれで見つけられるのかどうかは分からないがそこから考えるのが...良いのか?


「それじゃ、考えていこっか」



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「…そうだ、俺が答える前に例としてお前たちの好み...あぁ違う、ノーダックの好みに関して教えてくれないか?」

「……僕は良いのかい?」

「答えが分かりきっているからいい」

「そう?」


俺の答えを出す前にどんな感じに答えを出せばいいのかというのを教えて貰おうと思って聞いてみる。答えが知りたいのはノーダックだけ、ハルジオは間違いなくクラリスのことが好みであると答えることが目に見えているので聞かないというか聞く必要が全くないので。


「うむ、俺の好みか! いつもの様に回答をするのならば俺が好きになった女が俺の好みだというところだが、そうじゃないな。少し待ってくれ」

「いいぞ。お前の性格は分かっているからな」

「………………そうだな。好みとしては俺より小柄だと良いな、レミィより小柄だと尚更良い。他に求めることは特にはないが、肉付きとしてはないよりかはある方が好きだな。性格としては温厚というか気長な感じだと良いな、依頼で家を何日も空けることは多いからその間家で機嫌を悪くすることなく待っていて欲しいな」

「ほうほう、他にはあるか?」

「他には...あぁ、長生きしてほしいな。俺はハーフではあるがそれでも人間に比べれば遥かに長生きだからな、長命種を求めるつもりは無いが少しでも長い時間を一緒に生きていたいから長生きだと嬉しいとは思うな」

「……なるほど」


そんな感じか、なるほど...なるほど? レミィとノーダックって結構な体格差があったはずだぞ? そのレミィより小柄となると………いや、止めておこう。折角特別な好みというのを考えない友人が態々考えて導き出してくれた答えなんだから、要らないことを考えないようにしよう。


「まぁ、俺のことは良いだろう。それよりも決まったか?」

「あー、そうだな...質問してきてくれないか? まとめた答えを出せるように考えてみたが、どうにも考え切れそうにないというか考えられねぇわ」

「む、そうか...ならば俺よりもハルジオが質問した方が良いだろう。俺はその質問の回答をメモしておく...紙とペンはあるか? 場所を教えてくれ、取って来よう」

「キッチンの横にあるぞ」

「分かった」


「どれだ!」

「黄色のコップに入った黒いペンがあるはずだ!! その近くに紙もある!!」

「どれだ!! ……あったぞ!!!」

「じゃあ戻って来い!!!」


「すまぬ、見つからなかった」

「大丈夫だ」

「うん、懐かしいものを見れたしね」

「……そういえば前もこうしたことを度々していたな」

「そうだな!」



「まぁいいや、じゃあ始めるね。まず最初は外見から考えていこうか」

「あぁ」

「まずは身長、どのくらいが好み? 高いか低いか同じくらいか」

「そうだな...同じくらいか少し高いくらいだな。低いのが嫌という訳ではないんだが、下手に気を遣ったりすることがなさそうだし色々としやすそうだからな」

「そっかそっか、じゃあ胸とかお尻とかはどう?」

「どう、とは? 大きいのが良いか小さいのが良いかという話か?」

「まぁ、そうだね。どうなの?」

「大は小を兼ねるという言葉があるから大きい方が良い、と言いたいところなんだが特に拘りを持てそうにないな。大きかろうが小さかろうが個人の魅力に直結することはないだろうし、そもそもそこまで気にする事ではないだろう?」

「あー、うん、まぁそうだね。なら、全身の肉付きはどう?」

「不健康そうでなければ細かろうが太かろうが気にしないな。とはいえ健康だからと言っても極端なのは流石に困るがな」

「うんうん、なるほどね。じゃあ...後何がある?」

「ふむ、では種族とか年齢とかの希望はあるか?」

「特、に? 極端に高齢だったり若かったりしなければいいし、種族も魔族の残党でなければいいぞ」

「では長命種でもいいということだな?」

「あぁ」

「………あ、そうだ。顔とか髪とかの希望ってある?」

「特にないな。そこで決めるつもりも無ければ重視するつもりも無いしな」

「そっかそっか...次行っていい?」

「少し待て、纏める」


……………こうして言語化してみると俺の好みは全く定まってないな、定まってなさ過ぎて申し訳なくなってくる。だが仮にここで胸のデカい女が好きだといえば何処かで話を聞いたステラがキレて魔法を叩きつけてくるだろうし、逆に胸の小さい女が好きだといえば野生の獣よりも鋭い異常な勘を発揮してキリエが全裸で夜襲を仕掛けてくるだろうからな。それ以外も、まぁこれが好みだと公表すればどうなるか創ぞも出来ないから分からん、少なくとも俺が婚活しようとしているという話をレミィにしているのだしな。何処かでレミィの機嫌を損ねれば聞いてもいないはずのこの場での話し合いの内容を大々的に公表されかねん。俺の娼館通いを見抜いて証拠まで集めて仲間へと公表して俺が問い詰められるような状況に持って行ったのはレミィだからな。


「よし、いいぞ」

「うん、じゃあ次は...役職とか立場とか希望はある?」

「………どういうことだ?」

「ほら王族が良いとか、奴隷は嫌だとか。中央貴族は嫌だけど辺境ならいいとか、当主クラスは嫌だけどその側近までなら受け入れられるとかあるでしょ? そんな感じの役職とか立場とかで希望する部分はある?」

「いや、特には...あぁ、俺と結婚するってなって面倒事にならない立場だとか役職だとかだと良い。裏で邪魔な人間を処理してくれとかいうぐらいなら構わんが、表舞台に立って政治やら統率やらに協力しなければならないというのは避けたい」

「ふむふむ...引っ越したりすることになってもいいのかい?」

「まぁ、そこは妥協しよう。出来ることならば俺が引っ越すことなく此方に来て欲しいという思いはあるが、相手にも親族とか友人とかの繋がりがあるだろうからな。結婚する代わりにその繋がりを全て切り捨ててくれとまでは望まん」

「なるほどね。じゃあ、仮に王族だとしても表舞台に立たされなければ大丈夫ってことだよね?」

「あぁ、そうだな………あぁいや、結婚した瞬間の披露宴だとか、それまで続けてきた行事だとか公務だとかまでを否定するつもりは無いぞ。結婚してもそれを続けたいということならば、それくらいならば許容して表舞台に立っても良いぞ」

「へぇー…………じゃあ勇者パーティの披露宴には出なかったし、出ようとしてないの?」

「面倒、あと諸事情が重ねっていた」

「ふーん?」


疑われているというよりは羨ましがられている感じだな、まぁ実際笑顔を作って利用してくるであろう連中の相手をしているんだろうし仕方がない。それを分かってはいるんだが面倒なのは事実だし、諸事情が重なっていたというのも事実だからな。まぁあとはその利用してやるというあからさまな様子を見せられると理性を抑えきれなくなりそうだからな、諸々を考えると出席しないのが一番いい。そうした披露宴でしか出会えない相手と言っても関わりのない貴族だけだし、関わりのある貴族に関しては会おうと思えばいつでも会えるからな。


「うん、うん...よしそれじゃあ、次は内面の方を考えようか?」

「………性格とかか?」

「そうだね。性格、考え方とかそんな感じの表には出てこない部分を考えようか。ノーダック、纏め終わった?」

「うむ」

「よし、じゃあまずは性格。どんな性格だといい?」

「ふぅむ...倫理観と常識がしっかりしていればいいな」

「………それだけ?」

「あぁ。最低ラインは末期のキリエだ、常時あの様子なのは流石に勘弁願いたいが時々不安定になってあのレベルになるなら許容しよう」

「末期のキリエ………ごめん、どんな感じ? キリエが暴走してるのは結構見た記憶はあるけど、末期のキリエってのがどのレベルか分からないんだけど」

「うむ、俺も分からん」

「見たことないのか? んーまぁそうだな...末期のキリエはまぁ、酷いな。目に付いたものを全部呪おうとするし、思いついたことを全部やろうとするし、あとはあれだあれ。二十三回目だったか四回目だったかに進行してきた魔王軍に大量の星が落ちてきて消し飛んだだろう? あれくらいのことを街の中で見つけた気に入らないことに対して行おうとするのが末期になったキリエだ」

「…………まじ?」

「まじだ」


「………(そのレベルを許容できるの? やばくない?)」

「………(仲間という補正はあるだろうが...だからキリエがあそこまで依存していたのか?)」

「………(可能性はある...多分関係ないよ、だって加入当初からキリエってディーの言葉以外殆ど聞いてなかった筈だし)」

「………(そう、だな。言われてみれば、そうだったな)」


「? 大丈夫か?

「大丈夫だよ、それより最近キリエに会っているかい?」

「キリエにか? ……もう二年は会っていないな。大きな面倒事を見つけたから片付けてくると言って別れて以降は一度も会っていないな」

「………大きな面倒事?」

「あぁ」

「……ふぅん...ノーダック」

「うむ」


霊術師としての準備をしながら行ったということは霊術関係の面倒事なんだろう、会っていないことに寂しさはあるがキリエならば心配することはないから心配していないし近況を誰かに聞く事はしても直接見に行ったりはしていない。まぁそもそも何処にいるのかは知らんから会いに行けない………広い場所でキリエの名前を呼べば現れそうな気がするな。


「まぁいいや、それで次は考え方だね。色んな方面の考え方で求めることはある? 例えば野心家とか、子煩悩とかそういう感じで」

「そうだな...互いに要求し合えてその要求を受け止め合えるような関係に慣れると良いな。だから出来る限り心が広いというか受け身になれて、その上でしっかりと自分を見せて自分の要求を出来るのならば最良だな」

「ほうほう、他には?」

「他にか...明日を生きようとする意志を持っているといいな。俺が不意に死んだとしてもその先を生きようとしてくれるといい」

「………そっか」

「………そうか」



「んーーー、よし。それじゃあ好みはこんな感じだね、ノーダック全部まとめて読み上げてみて」

「うむ...ディレウスの好みは同じくらいの身長で自分の意思を押し付け合って、その上でディレウスがいなくなったとしても生きる意志を持ち続けられるような相手ということだな。他の部分で拘る事はないが、魔族の残党だけは許容できないだな」

「うんうん...」


「………まとめて言語化すると随分と無理難題じゃないか?」


そんな人間いると思えないんだが。


「そう? ………うん、大丈夫じゃないかな?」

「うむ、何も問題は無いな」

「…………そうなのか?」

「間違いなくいるよ、この条件を満たしてくれるような相手はね...あぁ、そうだったそうだった。聞いておかないと」

「うん?」

「一夫多妻、要するにハーレムは受け入れられる?」


……………………………


「俺に恋慕の情を寄せてくれて、選ぶことでその女性たちが悲しみに暮れるというのであれば俺は受け入れよう。無論その状況を受け入れてくれるのならな」

「………それは戦士としてのディレウとして? それともただのディーとして?」

「どちらも俺だが...今の俺としてだな。俺の意思だ」

「そっか………じゃあ次のステップに進もうか」

「あぁ」

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