お人好しの仲間たち
『ん、それじゃあバイバイ。しばらくは王国内にいるから近いうちにまた来るね』
レミィの作った朝食と昼食が兼用となった食事を食べ終えて、色んな国を回って見た感じで俺に紹介出来る女性はいるのかとかの婚活に関する話をして、他のかつての仲間たちとは会っているのかと聞いて、今度は俺が適当に有り余っている食材を使って料理をして、それからレミィ自身の結婚願望とかの将来に関して思うことはあるのかというのを聞いたりといった雑談を交わした。それからレミィの分の寝床を用意して一夜を明かして、朝食を食べた後レミィはそう言ってこの家を出発して何処かへといった。何処へ行くのか、何をしに行くのかというのは聞いていない。昔の仲間だった時は長期間の単独行動は不安になるから聞いていたし付いて行ったりもしていたが、今の彼女とは旅を同じくする仲間ではないしなにより彼女はかつての幼い何も知らない少女ではなく大人になった女性なのだから全ては聞かない。楽しかった、また会える時を楽しみにしている、風邪引かないようにな、それくらいだけでいい。
「さてと...血まみれの雑巾の片付けでもするか」
レミィを見送り、届いた手紙と記事にザっと目を通してから倉庫に向かおうと体を動かそうとする。一先ずの掃除よりも前に傷跡が目立たないようにするために抉り取ってそれをポーションで治したのだが、その抉り取った時に撒き散らした血液に関しては髭やら髪やらの掃除をする前に食材と同じく有り余っている布で拭いたのだが、色が鮮やかな血の赤で染まっていて大量出血してそれを拭き取りましたというのが目に見えていて見た人間に不安を感じさせることになるし、結構な量と重さになったのですぐに処理出来そうになかったので倉庫の片隅に纏めておいてある。それ自体は別に構わないのだが、友人をこの家に呼んでいるということと倉庫の中に入られてそれを見つけられた場合のことを考えるとだ...友人が来るよりも前に片付けておいた方がずっといい。というか流石に友人の家にある血まみれの布の塊を見付ける様な事態になれば、俺でも不安になるし心配するからおそらく手紙を送ってすぐにでも来そうな友人たちはもっと心配になるだろう。それに俺自身が一時期自傷行為とか、自死行為とかをしていたからそれが再発したと思われて拘束されてその上でクラリスの目の届く範囲に繋がれるということが、まぁ間違いなく起こる。というか一時期そうなっていたし、監視役が武装したハルジオとかいう魔王でも拘留しているのかってレベルで厳重だったし雁字搦めだった。多分二回目は無いな、仏の顔も三度までとかいう言葉はあるらしいんだが、多分三回目を訪れさせないように二回目で終わらせられるな。
とまぁ、そういう訳で血の塊みたいになっている布の塊をさっさと燃やすなりして処理してしまおうと思って倉庫に向かおうとしたのだが、
──コンコンコン
家から外に繋がる出入口となる玄関の扉がそう音を鳴らしてノックされる。その時点で倉庫に向かおうとしていた体の動きを玄関の方へと向き直らせて、レミィの時のようにどうか見つかりませんようにという思いを込めながら来客の方へと向かう。これが食材を届けてくれる獣ならば御の字、なんだったら布の塊を全部持って行ってもらって獣を寄せる罠にでもしてくれればいいと伝えれば受け取ってもらえる。友人ならば祈りながら相手をすることになるが、ここで意識を向けてしまえば一瞬で悟って倉庫を漁られて見つかる羽目になるので相手をし始めた時点で頭の中から布の塊の存在自体を吹っ飛ばしておく。バレた時は、まぁその時考えればいい。
「誰だ?」
「私だ!!」
「僕もいるよ」
玄関の扉を閉じたまま声を掛ける。レミィはそのまま普通に開けて入ってきたが、こうして閉じた状態のまま声を掛けるというのは仲間だった時からの取り決めだ。声を掛けて返事が返ってくれば人、返事が無ければ暗殺者等々、ノックもせずに入って来たのならばそれは敵であるので殺せ、そう言った取り決めを全員で決めてそれが今でも続けるようにしようと全てが終わった時に決めたのである。まぁレミィは成長を重ねるにつれて死ぬ気がしないといってする事はなくなったし、クラリスを始めとした女性陣は魔法で扉の先の人間を判別して確認するようになったからこの形式を今でも使っているのは俺とハルジオともう一人の男の仲間で今日来ている底抜けの明るさと元気良さを持ち合わせている男性陣だけなんだがな。
取り敢えず、確認も終わったので扉を開けて歓迎しつつ迎え入れるとしよう。外でずっと待たせておくのもあれだしな。
「よく来てくれた、ありがとう」
「なに!! 気にするな!! 滅多にないディレウスの頼みなのだからな!!」
「うん、こっちも無事に子供が生まれたからね。クラリスからも行けない私の代わりに行って来いって送り出されちゃったからね」
「それでもだ、こんな遠くまで来てくれたんだからな。感謝の言葉ぐらい受け取ってくれ」
「そうか、ならば受け取ろう!!」
「うん、それならいいよ。どういたしまして」
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「ふぅ...それで! 相談とは何だ! 普段ならば要件を書いているのに、何も書かずに相談があるから来てくれということだったが! 何かあったか」
家の中に招き入れて机と椅子がある食事のための部屋に連れて行き、メーロンの果実水をコップに入れて出す。すると招き入れた片方がその姿に似合わないほど静かに出した果実水を飲み、それから姿に似合った快活で大きな声でそう聞いて来る。聞いてきたのは大柄で筋肉質な白い髪の男で剣聖に選ばれたノーダック・エデル、自らの騎士道と最高神アイと他者の幸福に誓いを立ててその誓いに従ってだけ力を振るっている。その点を考えればレミィと同じく何処にいるのか分からないことの方が多いのだが、先日帰る場所となる拠点をこの国に置いたということでレミィと比べれば連絡を自由に取りやすいとは思う。
「うん、気になるね。いつもだったら内容を書いて手紙だけで完結させようとしていたのに、内容を一切書かずに相談に乗ってくれるなら来て欲しいなんて書き方をしてるのは珍しいしね。ディー一人の力で解決出来ない問題でも見つかった?」
ノーダックに続いて果実水を軽く口に含むように飲んでから穏和そうな口調で話し掛けてきたのはバランスよく整った体付きをしている勇者に選ばれたハルジオ・エスポワール。勇者卿と呼ばれる貴族籍に名を連ねており普段はドワーフやエルフ、精霊といった人間の王族貴族を敬うことがない種族を相手に外交等々の仕事を担っている。奥さんであるクラリスのことが大好きだし子供のことも大好きなのだが、ずっと構い過ぎたのか最近子供たちからは避けられているらしく、その度にクラリスに慰めてもらうので良いのか悪いのかよく分からないことになっている。子供が産まれたのでまたしばらく子煩悩になって、またパパ嫌いとか言われたらクラリスに泣きつくことになって子供が出来る事になるんだろうなと思う。
それはそれとして
単純に相談があるから来て欲しい、それだけを書いて送った結果二人揃って魔王との決戦直前のような様子を見せているというのは少し想定外だとは思うんだが、言われてみれば俺から二人に限らず誰かを呼び寄せたことが無かったなというのをそんな圧を出してどうしたと言おうとした直前で思い出す。ただ婚活に関して相談するだけなのでそんなに深刻な問題ではないと思うので、取り敢えず落ち着いてくれそんな案件だったら他の仲間も呼んでいると伝えてレミィに渡された土産である菓子を出す。
「………」
「………」
「そんなにじっと見つめなくていいだろうに。お前たちが危惧するような案件ならばこうして飲み物を出すこともなければ、今こうして武装もせずに座っているわけがないだろう? そもそも、こんな場所に呼び寄せる筈がないだろう?」
「……それもそうだな。ならどうしたんだい?
「………うむ、確かにそうだな!! ならば、相談とは一体なんだ!!」
「んーー、婚活をな」
「うん?」
「ぬ?」
「婚活を始めようと思ってな。異性に相談するのも気恥ずかしいから、信頼できる同性の友人であるお前たちに相談に乗って欲しくてな」
「…………はい!?」
「…………ぬぅ!?」
「そんなに驚くことか? ……いや、確かに去年までは結婚する気はないし一人で死んでいくんだとは言っていたけどさ」
「………すこし」
「ん?」
「……少し、待ってくれるかい?」
「良いぞ。お前たちも忙しいからな、こんな相談に乗ってる暇はないって言うなら聞かなかったことにしてくれて大丈夫だ」
「大丈夫、絶対にそれはないから。それはないけど、ちょっと待ってくれる?」
「うむ、想定外だった故な。即座に回答は出せんのだ」
「あぁ」
「ありがとう」
…………絶対にそれはない、か。良い奴らだ、相変わらずそのお人好しっぷりは抜けていないみたいだな...お前の結婚なんだからお前で何とかしろくらいは言われる覚悟だったんだけどな、もしくは大笑いされて冗談扱いされるか。まぁ驚きはされたけど、考えて結論を出してくれるくらいには真摯に向き合ってくれるとはな。
(どうする? まじでどうする?)
(止める気か? いや絶対に止まらんぞ。お前が一番よく知っているだろうが、ディレウスは決めたら止まらん男だぞ)
(うん、それは知っているとも。それを込みして、どうするって話だよ)
(……ステラたちか。彼奴らがこれを知れば...)
(戦争が起きるよ、間違いなくね。間違いなくステラはキレるし、キリエは暴走するし、レミィは何かをしでかすよ)
(それでは済まんぞ。第三王女は国を挙げるだろうし、第一皇女は私兵の軍団を率いて手に入れようとするだろうし...なにより、俺たちですら把握していないディレウスの引っ掛けた女が間違いなくいるぞ)
(いるね。少なくとも聖都はディーを迎え入れる準備が出来ているし、王族御用達の商人もディーに熱心に貢いでるくらいには執心だしね)
(娼婦を取りまとめている女傑に、獣人族の巫女。竜人族の王女とヴァンパイアの君主もそこに含まれるぞ)
(………不味いな)
(………不味いぞ)
(何が不味いかって戦争が起こることもそうだが、それがディーの何かに触れてキレたディーが皆殺しにしかねないことが)
(流石に知人友人だからそこまではいかんとは思うが...最悪ディレウスが本気で人の目の届かない辺境に消えるかもしれんな)
(…不味いな)
(…不味いぞ)
(取り敢えずステラを筆頭とした暴走しそうな面子には秘密にしておいて、ディーの婚活を協力しつつディーに一人を決めてもらう。それからディーのことを好んでいる人間は他にもいるんだぞと伝えてハーレムを築き上げてもらうでいいかな?)
(うむ...それで行こう。可能な限り内密に進めるぞ)
(あぁ)
…………思った以上に真剣に話し合っているな? 魔王との決戦直前でも明るく良い意味で大雑把だったノーダックにクラリスのこと以外は愚直に一つの目的に向かって突き進む事だけを考えていたハルジオには似合わない...いや失礼だな。あの時のまだ社会を経験していなかった頃とは違って二人とも社会を経験しているんだ、あの日々と比べれば遥かに成長しているに決まっているはずだ。そりゃ考えるべきところでは真剣に考えて、冷静に話し合うくらいは出来るようになっているか。
「すまん、待たせたな!!」
「結論が出たよ」
「ん、そうか。それでどうなった?」
「協力しよう!! 全面的にな!!!」
「うん、そういうことだ。とはいってもディーはしばらく表舞台に立っていないとはいっても間違いなく世界を救った一員だし、顔も名前も憶えているっていう人は結構沢山いるんだ」
「そうなのか?」
「そうだよ。だから大事にならないように、じっくりと誰をターゲットにするのかとか、ディーの好みはどうなのかとか、どんな暮らしにしたいのかとかをしっかり決めながら裏から決めていこうと思うんだけどそれでいいかい?」
「そうか...全然大丈夫だ、お前たちはその方が良いと思って決定したんだろう? 女性経験がかつての仲間くらいしかない俺と比べれば遥かに経験のあるお前たちの決定ならば俺は否定するつもりは無いな」
「そっか。ならこれで行こうか」
「うむ!!!」
「じゃあ、よろしくするぞ...あぁ、そうだ。それなら他の奴らにもう解決したって手紙を送らないとな」
「はい?」
「うぬ?」
「ん? どうかしたか?」
「……今何て言った?」
「他の奴らにもう解決したって手紙を送らないとなっていったが?」
「………誰に出した?」
「えーっと...王国の宰相と帝国の第一皇子と聖都の枢機卿の一人、それから何人か結婚している奴とか女性経験が豊富な男娼の奴とかかな?」
「……………」
「……………」
「? 大丈夫か?」
「「なにぃ!?」」
「おわ、びっくりした」
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