異世界人との交流

「お前がそんなになるなんて珍しいな。」

 研究室に入って早々、抱えている女の子とラック自身の顔を見るなりそんな言葉をかけやがった。

「うん、割と悔しいよね。」

「お前、地球も好きだけどこっちも結構好きだもんなぁ。何しでかしたんだ?先輩に聞かせてみろ。」

 自信満々に、慰めてやると言わんばかりにそう言ってくる。

 隠しておく理由も自身も無いので、素直にいう事にした。

「まず、高いところが苦手だってことに気付かないまま展望台に連れてった。」

「あほじゃん。」

「次に、転生理由を思い出させちまった。」

「・・・マジで何があったの?」

 さっきまでちゃらんぽらんに、面白おかしく終わらせようとしていたハルの表情が一変する。

 それもそうだ。相手によっては、俺が死んでいた、もしくはこの研究所ごと吹っ飛んでいた可能性があるのだ。

「多分、高いところに対する恐怖と、死ぬ前か後悔しているタイミングの光景がきれいな夕日だったんだと思う。」

「なるほど、そりゃ運が悪かっただけだ。前半はともかく後半については、お前に非はないよ。」

 分かってはいるんだけどな・・・。

「まぁ、そう割り切れるもんじゃないだろ。せめて、この子が嫌ってないと良いな。」

「あぁ、本当にそう思うよ。」

 ハルはそこでこの話を打ち切るように口調を変えた。

「ところでだ、その子、名前は聞いたのか?」

「あ、聞いてない。てかそうだ、獣人化の理由報告書に書いとかなきゃ!」

「おうおう、いつものラックになってきたなぁ。」

「あぁなんかな、獣人化の理由に、以前そばにいた動物がかかわってる可能性が出てきたんだ。今まではランダムだとかそう望んだからってのが多かったけど、案外、動物を飼っていたって人もいたもんだから、前からそうなんじゃないかとは思ってたんだけど、今回のことで何となく確信した。他にも影響してることはあるだろうけど、動物に思いを寄せる、もしくは動物が思いを寄せるような人が獣人化するんだと思う。」

「はいはい、そんな高速詠唱されても聞き取れないっすよー。全部書いといてね。」

 話すことは話したと言わんばかりに記入に集中し始めてしまったため、すぐに終わっただけでなく、精神的にだいぶ疲れたような気がする。

 そのせいか、いつ寝たのかも忘れてしまった。


 目が覚めると、右腕には暖かい人の温度、右手にはふさふさで触り心地の良い細長い感覚。心地いいと思いながら撫でていると、不思議な声が聞こえる気がしたので、目を開ける。

 目の前に、上目遣いで涙目な獣人が、恥じらいを訴えていた。

「あ、あの、ラックさん。やめて・・・。」

 良くないことをしていると、やっとのことで理性が理解できたので、後退する。下がる速度の調整を間違え、地面にたたきつけられたけれど。

「あた・・・。すまなかった。」

 不格好に倒れてから、すぐに正座プラス顔面地面付けという「土下座」にシフトした。

 少女はしっぽを手で守りながら震えているけれど「別にそこまでは・・・」みたいなことを言っているような気がする。

「と、とりあえず頭上げてよラックさん。」

「はい。」

 できるだけ指示通りにしよう。場合によっては普通に殺されかねない。

「どちらかと言うと、私に非があるから、あんまりラックのことは責めてないの。だからその、そこまでかしこまらなくてもいいって言うか・・・その・・。」

 非が何かわからないけれど、許されたというならいいか。

「あ、あぁ、分かった。」

「ラック。今日は大変なことになるかもしれないぞ?」

 気付いたら部屋に入っていたハルがそう声をかけてきた。

「なんかあったのか?ハル。」

「昨日、展望台に行ったって言ってたろ。それを遠くから見てたやつがいたみたいでな。」

「どうせアリアだろ。そんで、寮中に獣人が伝わって、推測の転生者も広がって、寮にいる男だけでなく女までお祭り騒ぎってことか?」

「パーフェクト。だが99点だ。」

「あとの1点は?」

「お前がその子を抱えて帰ってることろまでばっちりってことだ。」

「そのくらいなら確かに1点だな。」

 転生者のための寮があり、そこの寮長がアリアという女性なのである。

「あいつの噂好きは歯止めがきかないからなぁ。悪い事は一切流さないのは美点なんだけどなぁ。」

「でもハルのことは結構悪く言うじゃん。」

「え⁉そうなの⁉俺一回も悪口言われたことないんだけど⁉」

「まぁただの牽制だろうなぁ。他の人に悪い印象植え付けて、近づけさせないための。」

「こんなところでアイラの独占欲の強さを知るとは・・・。」

 あ、少女放置してた。

「そうだ、おなか減ってたりはしない?」

 食べているところをまだ見てないな。と思って質問したのだが、俺の腹がなってしまった。

「心配してくれてありがとうございますラックさん。実はさっき朝食を食べたのです。」

「そっか、なら良かった。」

 食事に対する質問も、担当した人が聞いてくれただろう。

「じゃぁ俺は食堂に・・・」

「待ってラック。私が作ってみたいんだけど、いい?」

 ・・・一度、一度だけ、転生者の希望で料理を作らせたことがある。

 その人は元の世界に似たものを使って料理をしたのだが、できたものの味は、魔物を殺せるのではないかというレベルの物であり。今生きているのは、その人が自分でも食べる人だったからである。

 若干のトラウマを抱えながら、悩む。

 朝食を食べた。という事は、この世界の食材に多少なりとも触れたという事である。トラウマの転生者は何かを口にするより早くそうしたのであるから、彼女ならもしかしたら・・・。

 希望と気合を入れて返事を決めた。

「わ、わかった。せっかくなのだから頂こうと思うよ。」

「ラックさん。大丈夫?」

 トラウマのせいか、はたまた気合を入れすぎたのか、少女に疑われてしまった。


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