夕日の綺麗な場所
「どうどう?気に入ってくれた?ラック...さん?」
「...あぁ、ありがとう。最初は誰が映ってるのかわからなかったよ。」
何一つお世辞は言っていない。あと、頭が軽くなるのは良い事だな、これから定期的に切らなければ。
「そうだ、君はどうして獣人なのか心当たりはあるかい?」
「獣人・・・。耳としっぽの事?」
通常、転生者はそのまま人であるはずだが、稀に獣人や会話ができる亜人になっていることがある。そのため、【モンスターとして倒している中にも転生者がいるのではないか。】なんて説が上がって、冒険者たちが路頭に迷いかけたことがあった。
また、今まで人以外に転生してきた者たちに共通して、そう望んだからというものがある。
なのでこれは、結構重要な質問でもあるのだ。
「たぶん、あっちで猫を飼ってたからだと思う・・・よ?」
元の世界の身近に、今の姿に関連する生物がいた。という情報も報告しておかなければ・・・。
「ラック?」
「ん?あぁ、すまん。考えこんじゃう癖があってな。なかなか治らないんだ。」
自分のことをそのまま伝えてしまう事も癖かもしれない。
「なんだかお父さんみたい。」
人の安心したような表情を見ると、いつもこちらが安心させられる。
「肩の力が抜けたところで、この世界の紹介をさせてもらってもいいか?」
ここには、転生者に対して絶対のマナー・・・というよりもルールがある。
「はい!よろしくお願いしますね、ラックさん!」
まずは、絶対に不安にさせないことだ。
「そうだな、まぁ、まずはこの世界についての説明になるから、展望台にでも行くか。」
知らない土地どころか知らない世界だ。不安にさせたら、その強すぎる力が何を失わせるかわからない。だれの命さえも、保証できない。
「展望ってことは・・・高いところ・・・ですか?」
次に、この世界での生き方を見つけることだ。
「そうだ。見えるか心配なのか?安心しろ、望遠鏡がある。転生者が教えてくれた機構のものだ。魔力が使えなくてもよく見える。」
おとぎ話のように、生き方とは生きる理由そのものでもある事がある。この世界を知らない人が放り出されたところで、善悪も分からないまま暴れられても困る。
それに、生き方はある方が幸せだという人が多い。
「そう、ですか。では、お願いします。」
また、無理に転生者同士に関わらせないことだ。ゴブリンだって場所の取り合いをするのに、人がしないわけがないだろう。
要は、同じような人同士でも仲がいいとは限らないのだ。
お互い口を開かないままエスカレータの技術を応用した垂直移動装置を使って登って行った。
他にも、「おすすめ」しないで、「こういう選択肢で生きてる人もいる」「こういう選択肢もある」という紹介だけで済ませる。とか、来た人に応じて柔軟な対応をするとか、結構難しい内容のものがある。
まぁ、相手が人だから仕方ないのだけれど。
最上階に着いたことを、チーンという音で知らせてくれる。すぐに扉は開いた。
「さ、ここから見えるのがこの国。セルジア王国だ。」
「いつの間にか日暮れだったか。夕日は君たちもきれいだという人がおお・・・」
ここでやっと、少女を見るのが鏡越し以来だと思い出した。その顔は恐怖に歪んで、瞳には雫が、手は頭を守るように、体は小さく見えるようにしゃがんでいた。
「あ・・・あぁ・・・
ごめんなさいお母さん、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・・・・・・・・・・・。」
うわごとのようにそう言い、声が出ていないのに口がそう動き続けているのは、言い続けてきたことの証だろう。
最後に一つ。転生者に対するタブーがある。それは、
【こちらに来た原因を聞きだす・思い出させることである。】
幸い、少女はそのまま気を失った。
「はぁ、こんなにルールを破ったのは初めてだなぁ。さすがに自信無くすな...。」
少女と罪悪感を抱えたまま、空けられたままの扉に入って下っていく。
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