ケモミミ少女がメインヒロインの作品
埴輪モナカ
異世界から転生してきた女児
地球とやらはとても文化的な世界だと聞いた。いろいろな書物があり、図鑑や随筆、小説などとこの世界の人間が考えたこともないような娯楽があるという。何人もの同僚(研究者)がその世界に行きたいとわめくのが常だが、あちらの世界には魔力というものが無いらしいので転生は不可能であるといえる。
そんな夢を語るひとりの同僚がこいつ、ハルバードだ。
「なぁ、なぁラック、本当に地球に行く方法はないのか?いろんな話を聞いた限りうらやましいことこの上ない最高の世界だぞ?」
「無理なものは無理だハル、あっちには魔力がないんだ、魔力のない場所で魔法を発動するには魔石が必要で、それを砕く方法があっても、あっちに石を送る方法がない。」
「でも一説だと、魔力はあるけど使い方がわからないとか、使う機構がないとか言われてるんだぞ?可能性があるとは思わないのか?」
それは一つの事実だ、地球に関してはまだまだ情報が足りない。だからこそいくつもの説が出てきていて、派によって分かれている。まぁ、事実を確認してしまえばすべての派閥争いは消えるが確認する方法がない。
それに、派閥争いは権力争いに移り変わり、俺たちの知らぬところで議論を繰り広げているらしい。
「思わないな。それにだ、仮に行けたとして何らかの理由で魔法を使えなかったら俺たちは帰れないんだぞ。」
「だったらあっちでサバイバルでもすればいいじゃん。」
「サバイバルできるほどの田舎世界じゃないらしいぞ。いくつかの国があって、国にはいくつもの都市があって、それでもって警備隊のような人たちがたくさん警戒してるらしいからな。まず見つかるだろうし、地球から転生した彼らから見たら我々の服装は珍しいと言っていた。すなわち、この服装で地球に乗り込んだら間違いなく職務質問されるだろうな。」
「うっ・・・。」
私の住んでいるこの国は一度、大きな過ちを犯した。
一時期、魔物が増えた時期があったらしく、その時期に転生の議を行い、強い力を持った転生者を召喚したことがあった。
『王は「魔物を倒してくれればできる限りの褒美を与える」と言った。その言葉と人柄を信じた転生者は多くの魔物を倒し、近隣の森は魔物が近づくことはなくなった。
彼が望んだのは地位や名誉、金ではなく。地球に帰ることだった。
「私はできうる限りの力をふるった。あなたの国のために、あなたとの約束のために。私の望みは地球に、私の故郷に帰ることだ。」
王は驚いた。他の皆も同様に目を丸くした。
王は困ったので魔法担当に聞いた「できるのか」と、しかし魔法担当は「いいえ、試したことも考えたこともありません。」
耳がよかった彼はそれを聞き逃さなかった。
「出来ないというのか、であれば努力をしてほしい。私が故郷に帰るために頑張ったように。」
この言葉がすべてのきっかけだった。いくら研究しても帰る方法がないのだ。今、そうであるように。
彼は5年待った。しかし、成果はなかった。そのため多くの研究者や一般人は不可能だといった。
すると、民や研究者はこういうようになった。「彼は一方的に働かされた腹いせに不可能だとわかりきってこの研究をさせて。研究者や王に対する信頼を地に落とそうとしている。もしかしたら魔族の手先で、この国を侵略させようとしてるのかもしれない。」と。
この噂を聞いた彼は、王のもとへ向かった。そして王へ、
「君の民はこのようなことを噂している。私にはもう憎むべき敵はいないのに、だ。もともと、私は故郷に帰りたいだけなのに、だ。」 そういって涙を流した。
王は「あぁ、わかっているとも。君がなしてくれたことは本当に国のためになったのだ。だからこそ、私たちが死力を尽くして君を帰らせなければならない。だが、私の命では足りないのだ。きっと、今王国にいるすべての民の長さを使ってもその魔法は成し遂げられないだろう。」
彼は「わかった、少し考えさせてほしい。」そう言った。
三日後、彼は再び王のもとへやってきた。
「王よ、帰ることが叶わないと分かった今、私はこの世界で生きようと思う。しかし、しかしだ、何かの因果で私と同じような転生者がやってきたときのために、何百年、何千年かかろうとも構わない。必ず世界をつなげる魔法を成し遂げてほしい。他でもないこの国に、誓ってほしい。」
王は驚き、そして、泣いた。理不尽にも連れてこられ、帰ることを願い続けた彼が、自分の国を愛してくれていることが、何よりもうれしかったのだ。
「約束しよう、この国は必ず世界間魔法を完成させる。」
王がそう言ってからこの国には魔法研究の職と別に、世界間魔法の研究を行う施設と仕事が作られた。その職に就いていること自体が天才の証明であり、魔法研究の研究員や戦闘員を凌駕する力を持つことの証明ともなった。』
まぁ、そんなところで研究している私だが、実のところ戦闘員としては一般人にさえ劣るだろう。ハルが言うには「奇跡レベルでの運動音痴、戦闘音痴。」とのことだ。
もちろん、悔しくないわけではない。だが、ほかの転生者が言うには、ハルは「異世界転生でチート能力をもらってる俺らより強いって、ラノベの主人公かよ!!」「俺ら召喚される必要なかったんじゃ・・・?」「やっぱり特別な能力もらったって時間かけて強くなった人には勝てないし・・・。」と、とんでもない能力を持っている転生者が意気消沈するような強さなんだとか。
他人事のように話しているのは、私がそれを見たわけではないからだ。彼ら転生者は見せてもらっているらしいが、私や所長などは彼の能力値を見たことがないのだ。
入所当時は、頑なに見せないがために所長に目を付けられ、入所資格を彼だけ所長との一騎打ちになったのだとか。ハルが勝ったらしいが。私はあまり信じていない。
「ラックってさ、なんでそんなに転生者に好かれるの?無愛想で研究一本で、どうしてお前が好かれるのか分かんないんだよ。俺なんて好感を持ってもらうための努力ばかりしてるのに。」
「研究員なんだから研究しろ。それに、ハルはそんな努力必要ないだろ。嫁がいるんだし。」
「やめろよ、アイラは勝手にそう言ってるだけなんだから。」
そういうハルだが、実を言うとそのアイラと付き合っていた時期があったとか。ハルが「もっと自由に生きたい!」とか言って振ったらしいが。理由が理由なためアイラはいまだにあきらめてないらしい。
「あと、ラックはもっと若い恰好すればいいと思う。俺らはまだ20入ったばかりなのに、ラックだけ40とか50とか言われるじゃん。あとほら、仙人とか。」
「そうは言われても、白髪は親譲りだし、髪切る暇があれば研究するし、俺はただ魔法の研究がしたいだけだから。そういうのを気にする理由がないんだ。」
「今までの転生者にも散々「短髪にしたら絶対モテるのに・・・。」って言わせてきたのに?」
「別にそんなの・・・・・」
『ラックフォンラード研究員。今すぐ所長室に来てくれ。』
そんな放送が届く。
「おいラック、お前なにしたんだよ?」
訝し気にこちらを見るハル。
「きっといつもの雑談じゃないか?」
「あの声を雑談といえるお前が怖えよ。」
というわけで部屋を出て廊下を歩く。赤いカーペットの敷かれた陽の差す綺麗な洋館...などではなく、両壁を扉が点在する真っ白でまっすぐな廊下である。
そんな廊下をスタスタと歩いて所長室へ向かう。
コンコンッ
「ラックフォンラードです。」
『おう、入れ。』
「失礼します。」
そう言って扉を開けて中に入る。
所長のほうを見るとひとりの少女がいた。
「その方は所長の娘さんですか?」
「違うわ。獣人族の嫁とか羨ましい限りだがな。」
「では?」
「転生者だ、数日前にやってきてな。遠征から帰ってきているときに行商人に捕まりそうになってるところを見かけて。もしやと思って助けたんだ。」
「こ、こんにちは。」
獣人の少女がそう言うと。私は少し驚いてしまった。
「挨拶ができるのか、えらいな。」
「あ、挨拶くらいできるよ!これでも17歳なんだから!」
「「え、17?」」
私も所長も固まってしまった。その獣人の少女の見た目は10歳程度の少女なのだから。
「17歳だよ。あと一年で大学生で、あと三年で成人なんだから。」
正直、どう反応するか迷ったが、せっかくなので自己紹介をするとしよう。
「遅れて申し訳ない、私はラックフォンラード。ここで研究をしているものだ。ラックと呼んでくれるとありがたい。」
すると、なぜか少しうずうずしだした少女はこう言った。
「あの、じゃぁ、ラック、あなたの髪の毛切っていい?散髪したらすごいイケメンになりそうだし、それに床屋目指してて結構腕は立つから。」
あまりに目を輝かせているものだからどう返すか迷っていたのだが。
「いいじゃないかラック、せっかくの機会だ、ここで一度髪を切ってすっきりするといい。」
「所長・・・。」
意地悪く言う所長を少しだけにらみつつ、所長の合図でやってきた使用人たちにつれられるまま、髪を切ることになってしまった。まぁ、転生者の希望だし、仕方ないか。
そういうわけで椅子に座ったまではいいのだが、なぜか椅子に固定され、直後に睡眠魔法で眠らされてしまった。
次に目が覚めた時、私の髪はきれいに切られていて、最初は鏡に誰が写っているのかわからなかった。
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