第2話 コオロギ

 病院のエレベータの中からコオロギの鳴き声がする。その中に足を踏み入れて見ても姿は見えず、ただ鳴き声が止むだけだった。

 恐らくどこかからエレベータに入り込み、そのまま機械の隙間に閉じ込められたのだろう。

 そこでいかに鳴こうとも、メスが来ることはない。そこには偶然でしかたどり着けない。

 病院の自動ドアを人間の通過に合わせて二回通り抜け、エレベータの扉を抜け、誰にも見つからない内に扉の隙間に落ちる。そこまでの偶然を繰り返して初めてたどり着ける。

 そしてコオロギの知性では、決して外へ脱出する道を見つけることもできはしない。後は死に果てるまで訪れることなきメスを求めて虚しく鳴き続けるだけ。

 あるいは同じくエレベータシャフトを偶々狩場にしたクモに食られるかだ。



 天界から見ていると、人の世界から人間の泣き声がする。

 何をやってもうまくいかないという運命の袋小路に入り込んでいる。

 人間の知性では、複雑に絡み合った運命の檻から脱出する道を見つけることはできない。後は死に果てるまで虚しく泣き続けるだけ。

 これを助けられるのはどこか高見から見下ろすことのできる存在だけである。


 だからこそ、人間は神仏を請い求める。

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