第1話 森の熊さん

 人里に降りて来る熊に対抗する方法を考えた。


 ドローンを使うのである。

 ドローンの基地となるポッドを用意する。ポッドには自動充電機能をつけてある。

 これを契約した地域に設置し、熊が出たとの報告があればこのドローンを遠隔操作で出撃する。

 ドローンには催涙スプレーが積んであり、これを熊の前に回り込ませてプシュとやるのだ。

 襲って来たのはドローンだから熊のヘイトはドローンに向く。そのため人間が復讐の対象とされることはない。

 傷つけられた獣は狂暴になるが両目が痛ければまず逃げが入る。攻撃スイッチが入ったとしても襲われるのは上空を飛ぶドローンである。


 もし万一催涙スプレーに慣れてしまって何度も人里に姿を現わす場合は、その熊をドローンで追いかけ今度は失明スプレーをかける。

 奥深い山の中で失明すれば人里へ出ることもできなくなるし、厳しい自然の中で熊は死ぬ。おまけに血も流れないので動物愛護団体の攻撃も躱すことができる。


 ドローンの操縦者は都会に居ることになるだろう。複数の集落と契約し、必要な場合だけリモートを行うのならば人件費を抑えることができる。

 失明スプレー搭載でのイタズラは重大な結果を招くので、リモート操縦はすべて記録され操縦者の手の届かない所に保管されるようにする。


 ここまで話すと必ずドローンの電波は限界があるというセリフが来るが、中継器という解決法があることをここに示しておく。さらにはちょっとした改造で携帯電話の回路をドローンの操縦系に接続することはできる。これならば人間が住んでいる場所のほぼすべてがノーコストでカバーできることになる。

 失明ドローンだけは大容量バッテリと衛星電話経由という形になるか、あるいは山の中に強力な中継電波発信機を置くことになる。



 これならば現行の技術で低コストで熊を追い払うのに実に有効に思える。



 ・・などと考えたがこれは不可能だ。

 技術的には容易な部類に入るが、現実的には難がある。

 それはテスト・フェーズである。


 実際に街中に熊が出た段階でのテストはできない。催涙ガスで熊が逃げるのではなく暴走した場合その責任を誰が取るのかということである。そのため街中でのテストはできない。

 では山の中に機材を設置してでのテストでは?

 これもできない。万一暴走した熊が山越え谷越え街を襲った場合その責任は誰が取るのかということになる。

 こうなると触らぬ神に祟りなしである。

 では動物園では?

 動物保護の観点から動物園がこの実験を認めるわけがないし、例え上手く行ってもそれを国が認めるわけがない。

 無毒フグは10万匹の検査にパスしても厚生省は認めなかったぐらいである。つまり0.001%でも失敗の可能性があれば認めないのだ。


 となると最終的にはこれらは国家が運営するプロジェクトでしか実現できないことになる。

 プロジェクトの先頭に『東大〇▽研究室監修』とつかないといけないのだ。


 確かにこれは難物だ。

 熊害で百人は死なないと一歩も進みはしないだろう。

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