第一話 2/9

「おせーよ」


「…すいません先輩、なんかレジが混んでて」


「入んな…、ちょっと休憩しようぜ」


戸口での短いやり取りのあと、私はその部屋へ通された。


 その場所は、この使われていない倉庫の休憩室だった場所らしく、歩くたびに床のホコリが舞う…。


ということもなく、そこはまるで私の家と同じ、中古マンションのような一室だった。


電気も通っているらしい。廃墟には似つかわしくないアンバランスな場所だ。


「おっ、きたきた」


「本命のナターシャちゃん(笑)」


 その部屋に入った途端にムワッ、と汗と香水入り混じったような嫌な匂いが鼻を突いた。


まるでさっきまで如何わしい『何か』が部屋中で行われていたような…。



 ふと部屋の真ん中に目を遣った。中央にデンと鎮座する大きな白いベッドが視界に入る。


先輩の友人たちがそのソファーに腰かけ、煙草を吸ったり、寝そべって、思い思いに寛いでいる。


「おっと」


 不意に先輩が私の肩を乱暴に掴んだ。


「ビッキが遅せーから、お前の連れから先にいただいてたぜ」


???


私がきょとんとした顔を先輩に向けると、今まで見たこともない邪悪な表情で先輩がささやいた。


「…鈍いやつだな。いい思いさせてやるって言ってんだよ」


——ビッキ助けて!——この人たち、急に…ガフッ!


……!?


 愚か者の私は、その時になって初めて気がついた。


白いベッドの男たちの足元、床に敷かれた赤い絨毯の上で、ウメコが顔を両手で覆って震えている。


その脇で、アリサが悲鳴を上げ、ユキが最後まで言葉を言い終わる前に男に髪を引っ掴まれ、拳を鼻っ面に叩き込まれる。


彼女たちの身ぐるは……嵐が過ぎ去ったあとのようにボロボロだ…。


…え?


お前がこの街に越して来てから…ずっと狙ってたんだ。


今夜の主役はおまえだ。


そのセリフを合図に、先輩が私の服の袖を強引に引っつかむ。


咄嗟に私はこの男を突き飛ばした。


——助けを、助けを呼びに行かなければ。


ビッキ……助け…!


うっせーぞ、オラァ!


 私の存在に気がついたウメコが顔を上げ、必死に助けを求める。


そのたびに男の一人に殴られる。鈍い嫌な音が部屋の中に響く。


その光景に私は一瞬、立ち竦んでしまった。


いきなりなにすんだテメー。


鈍い衝撃と背中への鈍痛、目の奥がチカチカして視界が激しく揺らぐ。


逃がさねえぞ。


突き飛ばした私を組み敷こうと、先輩が目を血走らせながら迫る。


優しい隣人は、もうそこにはいなかった。


 また誰かの悲鳴が聞こえる。


私が皆を軽い気持ちで誘わなければ、こんな事には…。


あとで誰かに言ったら、わかるよな?


先輩は薄気味の悪い猫なで声で囁いて、私の脚に手をかけようとした。


その時だった。


『べしゃり』

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