廃墟の霧と狩猟譚
釣鐘人参
第一話 1/9
霧が出た。それをきっかけとするように怪しい獣、「怪獣」が目撃、捕獲されるようになった。
先人達の調査、研究の結果、怪獣たちは新種の有害鳥獣としての面を持ち、反面、生物資源としての利用が各分野で期待されたが……。
□□□
私は外国人だという以外は特に何の取り柄もない、普通の高校生だった。
「聞きました?庫街の廃墟に、ナメクジの化けもんが出るらしいっすよ」
「ナメクジの怪獣?はっ、人気でんのかね?そんなもん」
「あくまで噂だろ?『ついでに』捕まえよーぜぇ、小遣い稼ぎになる(笑)」
イトー先輩と友人の大学生風の男達が、先ほどから中身のない会話で盛り上がっている。いい加減帰りたくなってきた。
「ビッキ、大丈夫?」
前を行く人の輪から、ウメコが心配そうに振り返る。
親の都合でこの街に越してきた。勝手がわからず教室で孤立していた私に最初に声をかけてくれたのが彼女だった。
「ん、廃墟探検とか初めてだから緊張しただけ」
彼女を心配させないように適当に調子を合わせておく。
初めての会話の話題は、お互いの髪や目の色についてのことだった。この国で出来た最初の友達。以来彼女はわたしの一番の親友になった。
彼女は私の性格や髪、瞳が綺麗だとしきりにほめた。それが功を奏した。のかはわからないけれど、私は彼女の属するグループに溶け込むことができた。
□□□
何でもいいや。ヴィッキスカヤさん、コンビニで食いもん
買ってきてよ。国道に出たら三分くらいで看板見えるから。はい、五千円。
廃墟の中ごろ辺りまで来たのだろうか?
なんか腹へったな…。と、いつものように先輩が私に買い出しを申しつけてきた。
イトー先輩は同じマンションに住んでいる男子の先輩だ。
来日したばかりで右も左もわからなかった私に、実の家族のように暖かく接してくれた。
先輩は大学生の友人達とネットの動画共有サイトに自主制作の動画作品を投稿しているらしい。
流行りものに疎い私は詳しく知らないが、そこそこ知名度はあるらしく、地元ラジオ局の番組に呼ばれた事もあるらしい。
ある日先輩に、いつも、どんな作品を撮られているのですか?と尋ねてみたことがある。
その時の先輩は一瞬、ギョッとしたあと目を泳がせつつ。
日常生活に疲れた人たちに『元気』を与えたり。視聴者があっと驚くような作品を作っている…いや作りたい…かな。
となぜかバツが悪そうに答えた。
先輩に何かの形で恩返しがしたい。
それ以来わたしは折を見て差し入れをしたり、撮影に必要な『小道具』の買い出し係を手伝うようになった。
□□□
『今度、廃墟探索の配信、撮影するから友達連れて遊びにおいでよ。帰りにメシとか奢るからさ』
ある日の昼休み。クラスの友人の一人、タキが先輩からわたしのスマホ宛に届いたメッセージに食らいついた。
彼女はミーハーだった。ミーハーは流行りものに目がない。
「タキはこういう流行りもの弱いからのう」
同じく友人のアヤが茶化す。まんざらでもないようだ。
「当たり前だろ、有名人とお近好きになる絶好の機会じゃねねーか」
「ビッキー、今週末はあーしも習い事休みだから行ってみよーぜ。面白そうじゃん」
世話好きでまとめ役のウメコがそう会話を締め括った。
今になって思う。
この時、三人を無理にでも引き止めておけば「あの人」に遭う事もなく、あの世界を知ることも一生なかった。
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