俺とひとり飯

今日は支配下にあるダンジョンの見回りのため、久しぶりに日本に戻って来れた。

日本にあるダンジョンのうち、俺が支配権を握っているダンジョンは3つ。そのうち最も出て来るモンスターの危険度・規模・立地が危険とされるのが旧新宿駅ダンジョンを見回って、異常がないことを確認するのである。

「お久しぶりです、中村さん」

「徳永さんこそお久しぶりです」

スーツに日本刀という漫画のキャラ染みた服装で成田まで迎えに来てくれたのは、警察が俺の警備のために派遣してくれている徳永ヨシアキさんだ。

スキルを持たない一般の警察官って聞いてるけど、俺の警備に回されるだけあってめちゃくちゃ強い。俺の周りの冒険者連中と対等にやり合える訳一般人がこの人以外にいてたまるかと密かに思ってる。

「早速ですけど旧新宿駅に向かいましょうか」

「いやー、ちょっと待って貰えます?トイレ行きたくて」

「どうぞ、お待ちしてますね」

そう言って一度その場を抜け出すと、周囲に誰もいないことを確認んしてからダッシュでレストラン街を目指す。


(やっと出来るぞ、3年ぶりのひとり飯!)


自分のスキルがきっかけで国連庇護下に入って3年。俺には常に警備の目が張り付いていた。

持っているスキルがスキルだけに悪用目的で誘拐や暗殺未遂に遭い続けた結果、トイレの中まで常に警備の目が光る状態でシンプルに1人の時間に飢えていた。

しかも飛行機の中でうっかりサラリーマンのおじさんが1人で飯を食うあのドラマを見ちゃったせいで、いま俺は無性に1人で美味いラーメンを食いたい気分だったのである!

この空港のレストラン街には九州の豚骨ラーメンを出す店があることは事前にリサーチ済みだ。

時刻は午後3時、今なら店も空いてるはずだ。

「いらっしゃいませ!お好きなお席にどうぞ」

サッと空いたカウンター席に腰を下ろすと、隣には先ほど見たはずの黒いスーツと日本刀が見えた。

冒険者が腰に武器を下げて歩き回ることはそう珍しくないが、刀の装飾がさっき徳永さんの腰に下がっていた日本刀と同じだ。

(……何でいるんだこの人)

事前に永礼か斎藤(警察にいる永礼の下位互換スキル持ちの奴だ)辺りが事前に垂れ込んでたのだろうか?

幸いこの店は隣の人を気にせず食べられるよう半個室になっており、声をかけなければ気にする必要はない。

周りに知り合いのいない状況下での孤独なひとり飯というシチュエーションはもう一生来ないなこれ……。

全てを諦めた俺は隣に徳永さんがいることを忘れようと、大盛り高菜チャーシューメンと餃子を頼むのだった。

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