チートがあっても戦えないので

これまでのあらすじ:チートスキルで世界中のダンジョンを安全化する仕事をしてる俺・中村リョウタは自分の所有するダンジョンの様子を見に日本へ帰ってきていた。


「旧新宿駅ダンジョン、相変わらず混んでんなぁ」

「名実ともに日本一のダンジョンですからね」

徳永さんが冷静にそんな話をしながらキョロキョロと周りの様子を探している。

「ヨッシーいた!」

大柄マッチョな明るいイケメンが徳永さんをガシッと抱きしめるように捕まえてくる。

「スネ丸も元気そうだな」

よしよしと頭を撫でると「そりゃね!」とドヤ顔で答えてくる。

スネ丸というのはこの大柄マッチョもとい姫村カズキのゲーム上のハンドルネームで、ヨッシーもとい徳永さんはそのゲーム仲間らしい。

普段はVRアクション系ゲームのトップランカーをやりながら冒険者もやってるという珍しいやつである。

「ヨッシーとリョータと3人で行くの久しぶりだなぁ」

そんな話をしながら楽しそうにダンジョンへと足を踏み入れると、早速水色のプルプルした顔に向けてスライムが飛んでくる。

すると俺の前に立ってた徳永さんがバッと片手で払い飛ばす。

「ここのスライムって顔狙ってくるからヤなんだよな」

「ホントだよねー」

そんな話をしながら顔を狙って飛んでくるスライムを手で弾き飛ばしているが、プロ野球選手の直球くらいの速さでスライムが飛んで来てるので普通の人はこれでも結構苦戦するって聞いてるんだけどな……。

バチッと俺の着ていた上着の攻撃無効化が発動する音がする。

黒焦げになったスライムが落ちて小さな魔石になって地面に落ちていく。

「飛んでくるスライムに全く気づいてなかったね」

「カズキ、気づいてたなら止めろよ」

「まあ大丈夫かなって」

俺の後ろに立っていた姫村はケロッと笑い飛ばしていると、ふと別方向から飛んできたスライムに氷弾が飛んで行った。

「本当にやばかったら俺が止めるし」

姫村は見た目のマッチョさに反して、その本質は魔術師である。

このマッチョな筋肉はあくまでゲームによって鍛えられたものらしく、ダンジョンでその筋肉が生かされる事はほぼ無い。

「中村さん、新宿ダンジョン管理室の入り口ってどの辺でしたっけ」

「ダンジョン1階最奥ですね」

「じゃあもう少し奥ですね」

徳永さんが飛んでくるスライムを素手で弾き飛ばし、カズキが後ろで俺を守りながら魔術でスライムを吹き飛ばす。

この2人ならこのダンジョンの最奥にもたどり着ける気がしてきた。

「俺やっぱり最弱なのでは?」

「戦闘力じゃなくて特別なスキルがあるから最強なんじゃん」

「中村さんを守るのが仕事ですから」

二十歳過ぎの男が守られてるのはちょっと情けない気がしながらも、ダンジョン1階の最奥を目指す。

「この辺ですよね?」

「ちょっと鍵石に触るんでちょっとどいてもらえます?」

徳永さんが退いてから積まれた石壁の中から、鍵となる石に手を触れると転送魔術が発動して俺は2人の手を取った。

「ここがダンジョン管理室なんだ!」

「カズキも徳永さんもいつも世話になってますからね、一度くらい招待しとこうかと」

ダンジョン管理室はそれぞれのダンジョンによって異なるが、ここの場合はかつて駅職員が使っていた事務室をモチーフにした質素な部屋だ。

鉄道関係のものたちが雑多に並んでいる中を、モンスター達が右往左往して働いている。

「キング・ナカムラがいらっしゃったぞ!」

モンスターが俺の顔を見て声を上げた瞬間、全員が俺へと頭を下げた。

「気にしなくていいぞ、問題なく動いてるか確認しにきただけだから」

まあまあと宥めるように声をかけると、徳永さんとカズキが唖然としたように俺とモンスターたちを見つめていた。

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