朝焼け前の悲鳴
「起きろ、新しいダンジョンが出来るぞ」
布団をめくりあげて俺を叩き起こした永礼の第一声は俺の新しい仕事の到来を告げるものだった。
「……寝させてくれ」
「無理だ。危険度は4だが場所が難民キャンプのど真ん中だ、お前が行かないとキャンプが全滅する」
永礼のスキルである予知が外れたことはないので、俺はしぶしぶ体を起こしてパジャマの上から護身ローブを被る。
このローブは世界最高の魔道具制作家の作品でこれを着ている間はあらゆる物理・魔法攻撃を無効化してくれるのでこれを被ることを局長のリーチさんから厳命されている。
永礼に左腕を引っ張られ、右手で眠気覚ましのコーヒーを飲みながら連れてこられたのは俺が住む家の最上階だ。
「マツ、10分以内に頼む」
漆黒の肌をパツパツの服で包んだ青年・松島レオは「了解」と楽しそうに笑う。
俺の左腕をマツの肩に通しておんぶさせてから紐で身体を固定させるとマツは音もなく走り出す。
韋駄天という凡級スキルを世界最高峰まで高めた地上最速の男は、地球上のあらゆる場所を音もなく走り抜けていく。
戦闘機よりも早く砂漠や海上も走り抜けると「目的地まであと10秒!」と声を上げた。
「ごめん、降ろす暇ないわ」
「は?」
そう告げると俺のローブの襟元を掴んでダンジョンの入り口へと乱雑に放り投げた!
まだ飲み切れていなかったコーヒーが俺の手元から放たれて放物線を描いて落ちてゆき、誰かが俺の下に体を潜り込ませて俺のクッションとなった。
そして同時に持っていたコーヒーは俺の顔面へと降り注ぐ。
「あっちぃぃぃぃぃぃ!!!!!!」
夜明け前のダンジョンに、俺の小汚い悲鳴が響く。
護身ローブは顔面に降り注ぐコーヒーからは俺を守ってくれなかった。
が、襲い掛かるガリガリの醜い顔をしたゴブリンたちは薄い青の壁に阻まれて俺たちに襲い掛かることはないようだ。
「……このシールドはショーヘイか」
「そうっす」
竹内ショーヘイは俺に押しつぶされそうになりながらそう声をかけた。
どうでもいいが俺の周りにいる冒険者は基本日本人か日本語が話せる奴が多い。守られるにしてもその方がストレス少ないだろ、という気遣いである。
幸い、日本はダンジョン先進国で強い冒険者が多いのでこういう融通が利きやすいらしい。
「ショーヘイが派遣ってことはホントに危険度低いんだな」
「あの、その前に降りて貰っていいっすか?」
「悪い」
ショーヘイの手元にはタイマーが設置されており、俺がダンジョン支配権を奪い取れるまであと15秒と表示されている。
ダンジョンの入口ではマツが周囲の人々にダンジョンから離れるように指示を出している。
「そういやショーヘイはダンジョンの支配権奪取見るのは初めてか」
「っすね」
「いいもん見せてやるよ」
タイマーを見ながら脳内でカウントダウンをする。
(5,4,3,2,1!)
「スキル発動」
地面を両手でダンと叩きつけると、15センチほどの透き通った赤く大きな水晶玉が飛び出してくる。
「これがダンジョンオーブっすか」
「おう」
このダンジョンオーブを呼びだし、手に触れることなく大きく口を開けて吞み込むことでダンジョンの支配権を得ることが出来る(手で触れるとオーブは壊れる)
手を使わずに大きな口を開けて飲み込むとつるんとした触感が喉を通り抜けてゆき、お腹に至るとふわりと溶けて俺の身体から光を放って一体化していく。
「199個目、無事制圧完了」
「……これがダンジョンキングなんですね」
「そう。本来ダンジョン最奥にたどり着かなければ得られないダンジョンオーブを自分の目前に呼びだし、飲み込むことでダンジョンの支配権を得る。それが神級スキル・ダンジョンキングだ」
「まあそうカッコつけててもローブにでかいコーヒーのシミ出来てるんでアレですけどね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます