第三作 真夏の散歩

 今年の夏は、例年の夏よりも暑かった。僕も君も、暑いのは苦手だったけど、ニュースで見た公園の涼しそうな噴水に誘われて、噴水がある近くの公園まで、散歩することにした。


「私、雲一つない空って嫌いだな」

 ちぎった脱脂綿みたいな雲が浮かぶ空を見上げながら、君はポツリと呟いた。君の白いワンピースの裾は、暑い風に吹かれて、涼し気に揺れていた。

「どうして?」

「あなたに出会うまで、私と一緒に散歩してくれるのは、雲だけだった。その雲すらいなくなったら、私は完全に独りでしょ?」

 悲し気にそう言って、「ほら、可哀想でしょ?」なんて顔をする君に、「これからは独りにさせないよ」なんていう月並みな言葉をかける。

「そういう顔、昔の君はできなかったよ」

「えっ、ずる賢い女になったって言いたいの?」

 威嚇する猫みたいな君の顔を、僕は静かに見つめていた。初めて会った時も、溶けかかったアイスクリームみたいだなと思っていた頬。あの日と違うのは、君の頬を溶かしているのが、悲しみではなく暑さだということだ。

「いいや、これからも、どんどんずる賢くなって。君は正直すぎるんだよ」

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