第二作 夜の果て

「夜には果てがあるのか、確かめてみたいんだ」

 ある夏の日の真昼間、あなたはそんな子供みたいなことを、大真面目な顔で言った。私は迷わず、「連れて行って」とあなたの手を掴んだ。

「私も小さい頃、虹の根元に行ってみたいと思ってた」

 こんな馬鹿な旅を魅力的だと思ってしまうほど、その頃の私たちは人生に疲れていた。急いで身支度をした私たちは、夕陽が完全に見えなくなった瞬間を待って、車に乗り込んだ。


 見慣れた交差点を山の方に抜け、病院の前を通り過ぎると、そこからは未知の領域だった。

「今頃、家族はどう思っているんだろう?」

 ハンドルを握るあなたの表情に、窓の外と同じ夜の色が落ちる。

「……ごめん」

「いいや、気にしてないよ。不幸の形は人それぞれだ」

 どうしようもない人生の愚痴を言い合いながら、私たちはひたすら夜の果てを目指した。いくつもの県を越え、遠くに富士山が見え始めた頃、夜の果てを告げる朝日は、ついに東の果てから顔を出した。


「ここが夜の果てか」

「この時間まで家で夜更かしをしていたら、夜の果ては家になっていたけどね」

 つい漏らしてしまった言葉に、あなたはくすっと笑った。本当に、理不尽なことばかりの人生だけど、こうやってあなたと馬鹿なことができる間は、なんだかんだで、きっと大丈夫なんだろう。

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