第4話 一緒になろうよ…

いつもは、消灯直前におずおずとやってくる律っちゃんが来ない。

もしかしたら、メールを送ってくれているのかも知れないけど携帯取られちゃってるから何も分からない。


本当に酷いよ斉藤先生!!


悶々としてるんだけど、手術で弱った体力は俺に睡眠を要求してきてね。

俺は、うとうとと夢を見たんだ。


…昔の夢だ。あれは三月と速見が本当にくっつく寸前、課の飲み会で酔っ払った速見が半泣きで絡んできたんだ。


――

――


沙織「先輩の紹介のあの人、半年経つのにキスもしてくれないんです。私って男の人からするとそんなに魅力が無いんですか!?」

「そうだな…まじな話、少なくとも俺は金を積まれてもお前に手は出さんな!」

沙織「先輩酷いよ…もう…知らない!!」


速見の巧妙な嘘泣き攻撃。

こいつ幼げな上に見てくれだけは良いから、そういうのやけに似合うんだよね。


後ろで速見の部下の国見が凄い目で俺を睨んでいる。

視線が「(さっさと慰めろ!)」と言っている。


お前なあ…直属上司の嘘泣きくらい簡単に見破れないと…ほんと良いようにこき使われるぞ!



速見沙織、我が社はじめての女性キャリアの一人。本社営業部ではただ一人の女性総合職。

ペラっペラの英語力を駆使して、我が社の弱点だった外資系企業に対して、あっという間に即戦力となった女傑…頭も切れるが、度胸も満点!

…そんな女が…そう簡単に泣くもんか!


最初はね、うちのバカ役員が、容姿だけで採用したんだろうとか思っていたんだ。

実際、突出して可愛いかったから。


誰が呼んだのか、愛称は「鶴姫」。


「観賞用には最高だけど、中身は煮ても焼いても食べられない」なんてみんなで笑っていたけど(速見はブンむくれていたけど)、本意じゃないんだよ。


まあどう見ても速見に惚れていた国見は別格としてもさ、うちの課の連中はさ、みんなお前のことが少なからず好きなんだ。

決して女性を武器にすることなく、いつも全力で仕事に食らいついてくるお前をさ。


お前の笑い声が、得意そうな笑顔が、ワタワタと焦りまくっている困り顔が、いつも課を明るくしてくれてるんだぜ?

お前の「鶴姫」の称号って、本当に伊達じゃないんだぜ?


沙織「もう!先輩の意見は良いです!紹介者なんだから、責任持って対策を考えてください!」


俺は笑って、三月が絶対逃げられないであろう押し倒しかたをお前に教えたな。


本当はさ、少し後悔していたんだ。


三月が本気になっちゃったら、お前の身も心も三月に雁字搦めにされてしまうのは分かっていたから。それは少なからず今の俺たちの関係の終焉を意味していたから。ぬるま湯のようだったこの関係は、きっと新しい何かに変わっていってしまうから。


そうか…あの時の三月が、この医局に対する今の俺なのか。

じゃあ…斉藤先生こそが、あの時の俺…なんだ。


――

――


?「…きやまさ~ん」

?「秋山さ~ん、あっく~ん…なんちゃって」

?「あっくん、寝ちゃった?」

?「あっく~ん」


「ん~、どうした?速見…」

?「……」

「………」

?「…帰ります」


「待って待って!律っちゃん!寝ぼけただけだからあっ!」



お酒飲んできたんです~という体の彼女を、まずはベッドに引き込む。

うん!これで契約発動。彼女は俺の奴隷だ。


律子「あんっ!い、いきなり…」


俺たちは横⚪位で抱き合う…ゆっくり…ゆっくりと。


律子「あ…あ…気持ち良い…」

「声は自分で抑えてね」

律子「あっ、あっ、そうやって急に動かされると!うっ、うっ、やん!」


「さて…」

律子「あん…な…何?」

「今日は誰と飲んでた?」

律子「え~と、な…内緒…あっ!あっ!ダメダメダメ!わ…かった!言うからあ!」

「……」

律子「内緒にしてって頼まれたんだけどダメ?…あんっ…はい!わ…わかりました!あ~ん、許して~っ」


こらこら奴隷さん…分かってないなっ!こうなったら…逃がさない。


律子「はあはあはあはあ…直人さん…斉藤先生と…あっ!イヤっ!何で!?あ、あ、あ、あ、ダメ、逝く、イクイクイク…あっなんで!!…何にも、何にも無かったんだよう!?」

「……」

律子「はあはあ…あ…あのね?斉藤先生と彩と飲んでたんだよ?」


「は?」

律子「?」

「彩さんも…一緒に?」

律子「?うん…」


斉藤先生…何やってんの?あんた…


「…それで?」

律子「うん…斉藤先生がね?あなたの動脈血の診断のお礼って言って誘ってきてね。なんか私と飲み比べを勝負したいって」

「はあ…」


あの男…やっぱりバカなの?


律子「勝ったら伝えたいことがあるって言うんだけど…あの人の酒量じゃ負けるわけないって言うか…あの人ぶっ倒れちゃうからさ」


そんなの面倒臭くてやってられないからさ…っと律っちゃん。

…あんたら本当に、愛人同士だったの!?


律子「ちょうど彩が通りがかってきたからさ…彩が一緒なら良いよって言ったんだ」

「……」


多分、彩さんの行動は計算ずくだろう…俺の携帯隠しなんか指示しちゃった時点で彼女には何かがあるって筒抜けだったんだろうなあ。


律子「案の定、先生…すぐ潰れちゃってさ、彩と二人で近くのホテルに運びこんで、彩を置いてきちゃった。知ってたかな?あの二人って元は夫婦だったんだよ…」

別れちゃったんだけどさ…彩は今でも先生のことが好きなんだよ…って言う律っちゃん。


斉藤先生…詰めが甘いですね。彩さんが同席した時点で、あなたの目論見はぼろぼろ…脆くも潰える運命だったんですね。



「…律っちゃん」

律子「ほえ?」

「…覚悟してね?」

律子「な…何が?」

「今から律っちゃんに徹底的な寸止めセ⚪クスをします!」

律子「な!なんでぇ~!?」



律子「ま、まっ…あん!ちょっと…あ!あ!ダメ!それ!なんで!ああっ!」

「夜は長いからね。覚悟してね?」

律子「あん、あん、やん、あ、あ、あ!ダメ、逝く、逝く、イクイクイク…なんで!いや~どうして!?」

「…聞きたいことがいっぱいあるんだよ」


そう…聞きたいことがいっぱい。


旦那さんは身体の相性が良かったんだろ?

処女だった律っちゃんはどんな風に開発されたの?


そうそう!昔のこととは言え斉藤先生と愛人関係だったのは、何としても話して貰わないとね!


そして、その時、どんな風に思っていたのか…どんなに辛かったのか…教えて欲しいんだ。


今となっては…俺は聞くことしか出来ないから。


全部教えてくれたら…そうしたらこれからはさ…俺が君を守るから。


身障者手帳付きのポンコツな身体だけどさ…きっと君がその辺りは助けてくれるんだろ?


…だからさ、夜通し繋がりながらさ、語り尽くしてさ、そして俺たち…一緒になろうよ…


「あっ!あっ!ダメ、逝く、イクイク…や~ん、あなたが…あなたが一番私を!あ!あ!あ!あ~ん!」



斉藤先生と彩さんは、この日の逢瀬で子供が出来て、皆に祝福されながら出来ちゃった再婚を果たした。




…そして…俺たちは…


※次回、最終回です。

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