第10話 魔女は眠り姫の抱き枕

「本当にすいませんでした…!」


 配信中だった事に気付いて悶えながら転がり回った後。落ち着いてきた私は、放置してしまっていた眠莉ねむり ヒメノさんに誠心誠意の謝罪をしていました。



「全然気にしなくて良いよ〜…?元はと言えば私が悪いんだし〜」


・そうそう

・後輩来る時間に寝てたからねネムちゃん

・別に謝らなくて良いんやで


「ほら〜。コメントの皆もこう言ってるしさ〜」


 そんな私に、眠莉さんは「気にしなくていいよ」と穏やかな笑顔で優しい言葉をかけてくれて…あれ、私の中から湧いてくるこの感情は…



「…ママ…?」


「…えっ?」


「あっ?!いや、今のは…違うんです…!」


 眠っていた時の眠莉さんは庇護欲が湧いてくるような雰囲気を纏っていたのに、今の眠莉さんは…暖かくて包容力があって…まるで、全てを包み込んでくれそうな雰囲気を纏っていて、つい口が滑ってしまいました…。


 眠莉さんをママって呼んじゃうなんて…私の方が年上なのに恥ずかしいです…!


「…ママ…かぁ…」


 恥ずかしさで赤くなった顔を手で覆いながら俯いていると、眠莉さんは何かを考えながら小さな声で独り言を零してから、私に声をかけてくる。



「…永遠乃ちゃん」


「…?」


 名前を呼ばれて、手で顔を覆ったまま眠莉さんの方に視線を上げると…



「…ぎゅ〜っ…する?」



 目の前の眠莉さんは、両手を大きく広げて、私をその腕の中に誘ってきていました。


「えっ…あの…」


 突然の発言に私が中々反応できずにいると、眠莉さんの方から近付いてきて、私をその大きな身体で包み込んでくれる。


「わっ…」



「はいっ…ぎゅ〜っ…」



 な…なんで急に抱き締め……あっ…でも…



「……あったかい……」



 突然のことで驚いたけれど…眠莉さんの抱擁ほうようは暖かくて、柔らくて、とても良い匂いがして…抱き締められていると、段々と心が落ち着きを取り戻していくような…



「……落ち着いた〜…?永遠乃ちゃん…」


「…はい。ありがとうございました…」


 そのまま10秒ほど抱擁を続けてから、眠莉さんは私の背中に回していた手を解いて、私を解放してくれた。


・誰でも落ち着かせるネムちゃんの得意技

・メルちゃんにも効果抜群やな

・寝てる時と起きてる時の差が凄いんだよなぁ


 悶えたりしてずっと放置してしまっていたコメント欄に目を向けると、どうやら眠莉さんは、慌てている私を落ち着かせる為に抱擁をしてくれたらしい。


「私がぎゅ〜ってするとね…あのキメラちゃんでも大人しくなるんだよ〜…?」


「えっ、あの禍辻さんが…?」


・最初は抱擁の感触楽しんでテンション上がるけど、続けると少しづつ穏やかになっていくんだよな

・大人しくなったキメちゃんは普通に可愛い

・ギャップが凄かった

・常にあの状態なら良いんやけどなぁ…


「あの時は可愛かったね〜…」


 あのコラボ配信の後に過去の禍辻まがつじ キメラさんの配信を視聴してみたところ、私以外にも同じような事をしている常習犯なのが判明してしまった…。

 そんな禍辻さんを落ち着かせるなんて…眠莉さんの抱擁には、私の予想以上の効果があったようです。


「永遠乃ちゃんはキメラちゃんと比べれば全然いい子だし〜、さっきの事は本当に気にしなくていいからね〜…」


・キメラはもっと凄いことしたからな…

・禍辻ぃ…

・アイツは本当にアウト

・そろそろ投獄されてもいいんじゃないか?あの合成獣

・合成獣じゃなくて珍獣に改名しようぜ。


 どうやら眠莉さんも、私と同じような被害を受けた被害者らしい…禍辻さん…本当に何したんですか…?



「で…でもそれでは私の気が済まなくて…」


 自分のした事がダメな行いだと頭で理解している私は、「気にしなくて良い」なんて言われても、どうしても気にしてしまう。


「わ…私に出来ることなら何でもやりますから…何かお詫びをさせてくれませんか…?」


 だからせめて、お詫びで何かをして自分の中で納得を付けようと思い、そう口にした…



 その瞬間、コメント欄と眠莉さんの纏う空気がガラッと変わった。


・ん?

・なんでも…?

・おっおっ?

・あちゃーっ…


「…永遠乃ちゃん…今、なんでもするって言った〜…?」


「えっ…?は、はい…言いました…よ…?」


 急に変貌したコメント欄と眠莉さんに何か嫌な予感を感じるけれど、1度言った言葉を変える訳にもいかず、素直に答える。


「それじゃ〜…お詫び…してもらおっかな…?」



 えっ…あの………??





──────────



「ね…眠莉さん…流石に…これは恥ずかしぃです…」


「なんでもするって言ったよね〜…?」


「た…確かに言いましたけど…!」


「なら、言った言葉はちゃんと守らないとね…永遠乃ちゃん抱き心地良かったからさ…やってみたかったんだよね〜…♪」


「…うぅ〜っ……!」



 …私は今、先程の「何でもする」発言のせいで眠莉さんのベッドに横になって、眠莉さんの[抱き枕]として使われています…。


・なんでもするって言ったもんねぇ

・仕方ない仕方ない

・うぅ…助かる

・有言実行だyo


 それはそうなんですけど…さ…流石にこれは……!


 後ろから抱き締められているから、背中に色々な感触を感じて…布団に包まれてるのも相まって、密着感が凄いです…!


「…とわのちゃん…さい…こう……」



「あ、あの…やっぱり他のに……あれ…眠莉さん…?」



「………………」


 今からでも他のお詫びに変更してもらおうと、後ろの眠莉さんに声をかけたけど、何故か反応が返ってこない。


・ネムちゃん眠るの早いんだよな…

・さすが眠り姫

・こうなったら自然に起きるまでずっと寝てるよ

・多分3時間ぐらいかな


「えっ…もうですか…?」


 どうやら眠莉さんは既に眠ってしまっていたようです…でも、この状況がずっと続くのは私の心臓が耐えられません…!


「な…なんとか抜け出さないと……ひゃっ…?!」


・おっ?

・なんだ今の声

・メルちゃん大丈夫?

・あっ、そーいやネムちゃんって…

・あーーーーっ…


「ちょ…ちょっと眠莉さん…どこ触って…ひゃうっ…!」


 抱き枕状態から抜け出そうとしていると、突然、後ろから伸びている眠莉さんの手が私の身体を撫でるように動いてきて…


「ね…眠莉さん…?ちょっとコメント欄の皆さん…これ本当に寝てるんですか…?!」


・しっかり寝てるんやで…抱き枕付きで…

・そーいやネムちゃん抱き枕使うと寝てる間に揉みくちゃにしてたな

・そうそう、抱き枕の時だけマイクから聴こえてくる音もでかいし

・買ったばかりの抱き枕がシワシワになって落ち込んでたよな…

・つまり…?

・いま抱き枕になってるメルちゃんは、その抱き枕と同じ運命を辿るのだよ


「そ…そんな…」


 いま私の身体をまさぐっている眠莉さんは、間違いなく眠っているようです…そしてその手は、眠莉さんが自然に起きるまで永遠に続く…


「や…やっぱり逃げないと……っ?!」


 再度、布団から脱出しようと試みると、眠っているはずの眠莉さんはその長い脚を私に絡めて、逃げられないように更に強く抱き締めてくる。


「こ…これじゃ逃げられ…んぅ…ね、眠莉…そこはダメで…ひゃっ…!」


・もう逃げられないね…

・心を強く持つんだメルトちゃん…!

・まぁ、それはそれとして…

・なんか…少し…

・<禍辻 キメラ>えっちやなぁ…

・珍獣だ!

・変態が湧いてくるレベルか…

・アーカイブ大丈夫そ…?

・これは…


「やっ…だから…そこは触っちゃダメですってばぁ……!!」


・まぁ無理やろな

・切り抜き師、動きます。

・ナイス

・<禍辻 キメラ>私も録音しとくわ

・禍辻ぃ…

・メルト様……



 そして、この行為は先程のコメント欄の言う通りに、眠莉さんが眠りから目を覚ます約3時間後までずっと続くのでした……。



 ────────


 後日、この眠莉さんと私のコラボ配信のアーカイブは削除されたけれど、動画投稿サイトには既に多数の切り抜き動画が投稿されていて…。



 …それらを見て、もう絶対に「何でもする」なんて言わないと、私は心に誓いました。



────※────

[眠莉ねむり ヒメノ]②

・眠っている時は庇護欲が湧いてくる小動物の雰囲気を纏っているが、稀に起きている時には全てを包み込むような包容力を見せて、よく視聴者のお悩み等を聞いてあげている。

・普段は穏やかで優しいが、心地よい睡眠の為なら他の人を利用する事もある。

────※────


 ✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -

 もしも読んでくれた人がいるなら…


 初心者の執筆なので、言葉の違和感や誤字などがあるかもしれません。もし見つけたら遠慮なく指摘していただけると助かります。


 更新頻度も不定期ですが、続きが気になるって思ってくれた人がいれば嬉しいです。


[作者コメント]

 この話を作ったせいで、「不滅の魔女、VTuberになる。」に性描写有りの設定を追加する事になってしまいました…。


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