第9話 2人目の先輩は眠り姫
初めてのコラボ配信が終わった日の夜。
お風呂に入り終わった私は、ベッドに転がりながら会社から支給されているスマートフォンを触っていた。
「…切り抜き…もう出てます…」
柏木さん曰く、VTuberの配信は、切り抜き動画という配信の一部分を切り抜いた物が動画配信サイトで投稿される事があるらしい。
そして調べてみたところ、どうやら私の今日のコラボ配信の内容を切り抜いた動画も既に投稿されていた。
『水色だってー!!可愛いね!』
「………〜っ!!!!!」
投稿されている切り抜き動画を少し見てみると、不安に思っていた通り、できれば拡散されて欲しく無い私の失言もしっかりと切り抜かれていました…。
「…これも全部、キメラさんの質問のせいです…!」
柏木さんに連れていかれて戻ってきた時に謝罪はされたけど、やっぱり1度ついてしまった苦手意識は中々取れません……うぅ〜…!
枕に顔を埋めて悶えていると、ふと、手に握っていたスマホから着信音が鳴った。
「…?誰からですか…?」
枕に押し付けていた顔を上げて、スマホの画面を渋々確認すると…
「……次の…コラボ相手…?」
その画面には、
「2期生の、
……一応、事前に調べておきましょう。
またキメラさんみたいな人だったら心の準備をしとかないとですし…!そう思い、「眠莉 ヒメノ」と検索をかけて、眠莉さんの過去の配信を見返すと…
「…えっ…??」
そこには、キメラさんとは違う種類の「変わった」配信内容が流れていた。
───────
…私は今、2期生の先輩である、
柏木さん曰く、2期生の眠莉 ヒメノさんは家から出るのが大の苦手らしく。本当に大事な時以外は本社に来ることもほぼ無いとの事。
それに加えて、オンラインだと高確率で眠莉さんが遅刻するから…という過去の前例もあってか、眠莉さんのコラボはオフでやるというのが恒例らしい。
「…でも…あの配信内容なら納得ですね…」
一昨日に柏木さんから連絡が入ってから何回か眠莉さんの配信を視聴したところ、どうやら眠莉さんは基本的に睡眠配信…?という他とは違う特殊な配信をする配信者で、配信中はほとんど眠っていて、稀に起きている時にも会話中に寝てしまって結局睡眠配信になってしまう…そんな方のようです。
それでも視聴者の人達からは根強い人気を得ているらしく。コメント欄ではASMR?という物と認識されて好まれているようです。
ピンポーンッ
「…………出ないですね…」
意を決して眠莉さんの自宅のインターフォンを押しても、反応は返ってこない。でも、これは想定されていた事だから問題ない。
「柏木さんに感謝しないと…」
「多分寝てるから」と言われて、事前に柏木さんから渡されていた眠莉さんの自宅の鍵を使って、眠莉さん宅の入口を開ける。
反応がないのは日常茶飯事のようで、「勝手に入ってもいいよ」と眠莉さんからは許可を貰っているらしい。
見たところセキュリティも厳重そうだから、それ故の事だろう。
「…お邪魔します…」
許可は貰っている…とは言っても、勝手に人の家に入るのは少し緊張してしまい、ソワソワしながら家の中に入る。
「…広いですね……」
眠莉さんの家は外から見ても中々に大きな家だったけれど、中から見ると更に広く感じた。
睡眠配信で人気が出ているのは知っていたけど、ここまでの収入があるのかと少し驚いてしまう。
…私も2回の配信で食料問題が解決するぐらいには収入が増えたけど、まだまだ先輩達には勝てそうにないですね…。
本当に柏木さんには感謝です…鍵と同じく事前に渡されていた、眠莉さんの部屋までのルートが描かれた紙を見ながら家の中を進んでいく。
眠莉さんの家は余計な物がなく、機能性重視のような家具が綺麗に整えられていて、睡眠を優先している眠莉さんらしい…。
そんな事を思いながら家の中を歩いて、眠莉さんの部屋の前に着く。
…コンコンッ
1呼吸おいてから扉をノックしても、インターフォンの時と同じく反応は返ってこない。
「…えっと…お邪魔しますね…?」
ちゃんと入ることを告げてから、恐る恐る眠莉さんの部屋に入る。
部屋の中は、ここまでの道程にあったような様子と違って、ヌイグルミやクッション等のもふもふした物に溢れた、白や水色等の目に優しいような色で飾り付けられた可愛らしい部屋だった。
ふかふかのカーペットの感触を感じながら、部屋の奥に進んでいく。
「…やっぱり…」
部屋の大部分を埋めるような大きなベッドに近付くと、案の定、ベッドにはヌイグルミに包まれながら1人の女性が眠っていた。
私が会う2人目の先輩…眠莉ヒメノさんは、綺麗な白髪を寝癖でふわふわにした、私よりも一回りほど背の高い女性でした。
「…すぅ………すぅ……」
静かに寝息を立てながらスヤスヤと眠る眠莉さんは、私よりも背が大きいのに、配信で使うアバターと同じく、少動物のような…どこか庇護欲を
「…………っ」
そんな眠莉さんのお顔を眺めていると、突然、とある欲求が湧いてきてしまいました…。
さ…触ってみたい…!!
眠っている先輩の顔に触れるなんてダメな事だというのは、ちゃんとわかっています…!でも、眠莉さんの…ぷにぷにの頬っぺたとモフモフしてそうな髪を見ていると…触りたい欲求が湧き出ててきて…!
「す…少しぐらいなら…」
頭の中ではダメだとは理解しつつも、身体は勝手にベッドの上に乗りかかって、ゆっくりと眠莉さんの頬に手を伸ばしていき……
プニッ…
気付けば、眠っている眠莉さんの頬に指で触れていた。
「…や…柔らかい……!!」
1度触ってしまってはもう止まらず、私は内心で眠莉さんに謝りながらも夢中で触り続けてしまう。
「…わぁ…こんなに柔らかいんですね…眠莉さんの頬っぺた…」
そんな風に触り続けていると、私の視線がまた別の場所に向けられる。
「…髪…ふわふわしてますね…」
寝癖の影響もあって、綺麗な白髪がふわふわもこもこしていて…とても触り心地が良さそうです…頬っぺたをあんなに触っても起きなかったですし、少しぐらいなら…!
既に欲求のブレーキを制御出来なくなっている私は、ぷにぷにとした頬から手を離して、次は眠莉さんの白い髪に手を伸ばしていく。
モフッ…モフモフ…!
「す…凄いもふもふしてます…!!」
まるで昔触ったことがあるフェンリルのような触り心地…!寝癖でふわふわになっているのに、指が引っかかったりしなくて…撫でてくださいと言ってるような心地よい感触……
モフモフ…モフモフ…!
目を閉じて眠莉さんの髪を堪能していると…
「……とわの…ちゃん…?」
突然、私以外の声が耳に入ってきた。
「っ?!」
その声に慌てて閉じていた目を開くと、私が先程まで撫でていた
…視聴者さん達の言う通り、眠たげでトロンとした目が可愛いな〜…と、この言い逃れができない状況で咄嗟に現実逃避に走った私に、眠莉さんは追い討ちの言葉をかけてくる。
「…えっと……はいしんついてるんだけど…だいじょーぶ…?」
まだ眠いのか、途切れ途切れに私に衝撃的な言葉を伝えて、ベッドの脇に置いてある机を指さした。
…………はい…し…ん…??
眠莉さんの指している方向へと視線を向けると、そこにはパソコンが置いてあって…その画面には…
・配信中なんですよ実はw
・メルちゃん気付いた〜?
・ネムちゃんの頬っぺたと髪は気持ちよかったかい?
・凄い夢中で触ってたね〜
・少し荒くなった息遣いが少し叡智やったな…
・
・
・
…私が眠莉さんが寝ている間にしていた事を指摘するようなコメントで溢れた、紛れもない配信画面が表示されていた。
「…?」
眠莉さんは、パソコンを見つめたまま固まってしまった私の事を不思議そうな顔で見つめてくる。
「わ………」
「…永遠乃ちゃん…?」
「わぁぁぁぁ〜っ!!!!!!!!」
心配して声をかけてくれた眠莉さんを無視して、私は大声をあげて悶えながらベッドから転がり落ちる。
「…永遠乃ちゃん…だいじょーぶ…?!」
だ…大丈夫じゃないですっ…!!!!
…こうして、私は2人目の先輩との出会いを思い切り失敗したのでした…
────※────
[
・常に寝ている眠り姫ライバー。
・主に睡眠配信という、配信してる間ずっと眠り続けるという他の配信者は真似できないような配信をしている。
・リスナー達からはネムちゃん等と呼ばれて親しまれていて、配信中は眠っている眠莉さんが付けたマイクから聴こえてくる、穏やかな寝息や、偶に呟く寝言などを楽しんでいるらしい。
・寝ている時は小動物。では起きてる時は…?
────※────
✂︎- - - - - - - -キリトリ- - - - - - - - - - -
もしも読んでくれた人がいるなら…
初心者の執筆なので、言葉の違和感や誤字などがあるかもしれません。もし見つけたら遠慮なく指摘していただけると助かります。
更新頻度も不定期ですが、続きが気になるって思ってくれた人がいれば嬉しいです。
[作者コメント]
今回は先輩じゃなくてメルトちゃんが原因のやらかしでしたね…
あっ、メルちゃんはヒメノちゃんの髪をフェンリルに例えてますが、現実だと犬のゴールデンレトリバー辺りが良い例えになります。もふもふサラサラ
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